MSX2+
MSX2+(エム・エス・エックス・ツープラス)とはMSX規格の一つで、1988年に発表された。
MSX1からMSX2への大幅な変更と異なり、MSX2+での変更点は、VDP変更による表示機能の追加や一部オプション規格の標準化に留まっている。
主な仕様
- 画面モード
- SCREEN0〜9:MSX2準拠
- SCREEN10・11:グラフィック256×212ピクセル×2画面 固定12,499色(ドット単位の色指定不可)+512色中16色(ドット単位に色指定可能)
- SCREEN12:グラフィック256×212ピクセル×2画面 固定19,268色(ドット単位の色指定不可)
- メインメモリー
- 64KB〜
- VRAM
- 128KB
- サウンド
- MSX1準拠
- PPI
- MSX1準拠
VDPの変更による機能の追加
MSX2+では、従来のV9938に対し上位互換のV9958を搭載した。このことにより、多色表示である自然画モードと横方向のピクセル単位のスクロール機能が追加された。この二点が、MSX2+での規格上の最大の変更点と追加機能ともいえる。
自然画モードは、NTSCの特性を利用して同じVRAM容量で扱える色の分解能を増加させた圧縮画像モードで、輝度は1ドット単位で5ビット(32階調)だが、色相は4ドット単位で12ビット(4,096色)である。その特性からスチル画像などの自然画では効果を発揮するが、ピクセル単位で任意の色を使用するCGなどでは4ドット単位でジャギーが顕著に表れ、これが「自然画モード」と呼ばれる所以である。扱いづらい上にホビーユースではMSX2のSCREEN8で十分な自然画描画が可能だったことから、市販アプリケーションでは、特典映像に使用される程度で有効に活用されることは無かった。また理論上は13万程度の発色数になるが、最終的にRGBに変換する際にある程度丸められるため、仕様としての発色数は19,268色となる。
横スクロール機能も、ハードウェアの仕様を利用しソフトウェア的な工夫を施す事により、制限や制約が付くものの、同様の動作をMSX2で実現するものも現れた。また、MSX2+とは機種判別を行い、MSX2+では、横スクロール機能を用いるようになっているものもあった。
V9958もV9938同様、処理量の軽減や、高速化などは行われていないため、ビットマップモードでは動きの多いソフトウェアを作成しづらいという状況も変わりは無く、結果として、MSX2+は、MSX2に対して大幅なアドバンテージを有していたとは言えなかった。
オプション規格の標準化
MSX2ではオプション扱いだった漢字ROMが標準搭載とされた。なお、MSXの漢字ROMはフォントの形状は規定しておらず、特定の文字コード以外は、各社該当する文字が同一であれば、フォントそのものは同一であることを要求していない。
また、詳細は各社でまちまちだったフロッピーディスク・ドライブ(MSX DISK-BASIC)の規格や内部スロット配置の標準化された。
また、オプション規格として、MSX-JE、MSX-MUSICが定義されている。ただし、実際に発売されたMSX2+機の多くは、MSX2との差別化のためか、これらのオプションの規格も本体に装備している。
VDP以外はオプションとして規格に対応するハードウェアが発売されていたものが多い。結果的にMSX2も、ほぼMSX2+相当の機能にすることが可能になっていた。これらの状況から、市販のMSX用ソフトウェアはMSX2+発売以降も、「要・漢字ROM」等の但し書き付きのMSX2対応製品がメインとなり続けた。MSX2+専用ソフトが発売されることは少なく、MSX2用ソフトウェアの一部が、機種判別の上、内部的に最適化された処理がされることがあるという形になっていた。
その他の変更点
MSX2までの実装では、裏RAMに起動可能なROMイメージをコピーすると起動時にそのイメージを起動可能なROMとして認識し、自動的にそれが起動する可能性があった。通常DRAMは揮発型の記憶装置であり、電源断と共に、有意な値は持たなくなることが期待されていたが、現実には、メインメモリーのチップのCMOS化と、バイパスコンデンサーに蓄積された電力などの要因により内容が保持されてしまい、電源を切っても5分近くその状態が維持されてしまうような状況が発生していた。そのためMSX2+では、起動時にメインメモリーのROM識別IDに該当するエリアをクリアするように変更されている。
システムの起動画面は、左右から横スクロールで大きいMSXロゴが現れ、メインメモリーの搭載容量がKB表記で表示された。市販された製品は64KB搭載のものだけだったが、拡張すればその分も加えての表示となる。
MSX2では起動時に消去しなかったSCREEN5のページ1は、起動時のスクロール処理に使用されるため実装の都合上、クリアされるという挙動の変化も存在している。
また、平仮名など一部の8ドットフォントを変更し、SCREEN0で横2ドットが切れて読み辛くなる問題が改善されている。
追加された漢字モードでは、シフトJISコードを使用するため、MSX固有のひらがなやグラフィック文字などのMSXフォントは文字化けする。
参入したメーカーと発売した機種
MSX2+規格に参入したのは、ソニー、三洋電機、松下電器産業の3社だけとなった。ヤマハはVDPとFM音源、東芝はZ80カスタムCPU(MSX-ENGINE2)などの部品を提供するのみになった。
発売された機種は全てキーボード一体型となり、セパレートタイプのマシンは発売されなかった。また、規格の上では必須ではないが大半の機種でFDDを1〜2基搭載していたことから、供給ソフトのメディアの主流は完全にROMから価格の安いFDへと置き換わった。
- 三洋電機
- WAVY70FD、WAVY70FD2、WAVY35
- BASICコンパイラ(「MSXべーしっ君ぷらす」相当)を内蔵。単漢字変換で、MSX-JEは内蔵しない。WAVY35は日本国内の一般向けのモデルではなく、FDD非搭載。70FD2はフロッピーディスクドライブを2機搭載。
- ソニー
- HB-F1XDJ、HB-F1XV
- ゲーム開発ツールディスクを付属、筐体はMSX2のHB-F1XDシリーズから流用。MSX-JEを内蔵。漢字ROMにはJIS X 9051のビットマップフォントが使用されている。XDJは1年ほど使用しているうちにFM音源の音が小さくなるという回路の不具合があり、メーカーでコンデンサー交換による対応を取っていた。またメモリーは64KBながらハード的にはマッパーRAMとなっており、ページを跨いでのセグメントの移動が可能となっている。メモリマッパー規格は最低128KBで切り替えBIOSがなくてはならないので厳密にはメモリマッパー対応ではない。
- XVは本体のカラーリングを変更してバンドルソフトウェアを充実。F1シンセサイザー(シンセサウルス相当品)、F1ツールディスク(グラフィックエディター、らくらくアニメ、ボイスレコーダー、BASICファイラー)、文書作左衛門(ワープロソフト)。
- 松下電器産業(現パナソニック)
- FS-A1WX、FS-A1FX、FS-A1WSX
- Wシリーズはワープロ内蔵、FXはFM音源・MSX-JEなし。WSXはS端子を付けた代わりにカセットテープ端子を削除。改造して後付けすることは可能。
- 10.7MHzのオシレータ出力を搭載している。MSX規格のCPUクロックである3.58MHzは、これを3分周して生成する。また、これを2分周した5.38MHzのモードを持ち、内蔵ワープロを高速に動作させるために使用された。BASIC等からも利用が可能で、BASICより「OUT 65,154」と打ち込むなどの方法でI/Oポートに規定の値を出力することで、入力周波数が変化する。ただしMSX-ENGINEに対する入力周波数が変化することから、PSGの音程など、そのクロックを拠り所としているものは全て影響を受ける。