キム・ヨナによる練習妨害発言

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金妍兒による練習妨害発言(キム・ヨナによるれんしゅうぼうがいはつげん)は、韓国フィギュアスケート選手・金妍兒が、2009年世界フィギュアスケート選手権前に「競争相手の選手に試合直前の練習を妨害された」とした発言。本項では、日韓のマスメディアにおけるこの発言の扱いや、発言をきっかけに起こったとされる出来事について記述する。

発端となったインタビュー

2009年世界フィギュアスケート選手権を目前に控えた2009年3月14日、韓国のテレビ局SBSは、「日本の選手が、公式練習中に金妍兒の練習を妨害した」とする番組を放送した[1][2]

金はこの番組のインタビューにおいて「これまで大会のたび、試合直前の公式練習中にジャンプをしようとすると、進路を遮られた。特に今回の四大陸大会では(練習妨害が)少しひどいという印象を受けた。そこまでしなければいけないのかと思うことが多かった。しかしそれに負けたくないし、それに負ければ競技にも少し支障が出るかもしれないので、対処方法を考えている。」と語った[3][4][5][6]。この時、金は練習を妨害した選手について個人名を挙げたり、「日本人」と特定することはなかった[1][3][7]

しかし番組では、2009年四大陸フィギュアスケート選手権の6分間練習で、金と日本人選手が交錯しそうになった映像に「常に妨害してきたのは日本人だった」というナレーションをつけたVTRが放映された[1][4]。『朝鮮日報』によると、番組放送後、韓国のフィギュアスケートファンは金妍兒が複数の日本人選手とすれ違う写真や動画をインターネット上に掲載し、アクセス数も急上昇した[8]

他の韓国マスメディアもSBSの後を追い、「日本の選手達が組織的に金の練習を妨害した」と断定的に報じた[9][10]。例えば、『中央日報』は「中野友加里安藤美姫浅田真央らライバルの日本選手はキム・ヨナの演技中にかなり接近し、練習の流れを遮っていてけん制があまりにもひどかった」と報じ、韓国のフィギュアスケートファンの発言として「同僚選手が大けがをする恐れもあるというのに、鋭い刃を足に付けて演技する選手たちはあまりにもやり過ぎではないか」「競技直前の練習は選手たちの駆け引きが激しいが、世界選手権では何か対策がなければならないようだ」と記した[4]。ほかに、ブライアン・オーサーコーチ(当時)が「日本選手の一人が金妍兒のジャンプの軌道だけを徘徊している」と抗議したと報じたメディアもあった[11][12]。『ディリアン』は、日本スケート連盟が練習妨害を否定する声明(次節参照)を発表した後、「抗議するのではなく偶然に起こったことであるとの証拠を示さなければならない、誤解を解くか謝罪をするのも時期を逃せば意味がない」と批判した[13]

日韓スケート連盟の対応

日本のスケート関係者たちは、金がそのような発言をするはずはなく、韓国マスメディアによる誤った報道がなされているのではないかと見ていた[1]。伊東秀仁・フィギュア部長が取材に「(2009年2月の四大陸選手権で現地入りしていたが、)そこでも抗議はなかった。意図的に進路妨害をするというのは、絶対あり得ない」と応えてはいたものの[14][5]、日本スケート連盟としては特に対応しない方針だった[15]。しかし、ファンなどから「なぜ(韓国の報道に)抗議しないのか」などの声が殺到したことで、日本スケート連盟は日本選手の金に対する妨害行為を明確に否定し、金側からの抗議や国際スケート連盟からの警告も受けたことがないと表明した[15][16]。加えて、韓国スケート連盟に報道の経緯説明を、国際スケート連盟には報道への見解を求めて、それぞれ文書を送付した[17]。このとき吉岡伸彦強化部長は「日本選手の名誉にかかわる。韓国連盟には金選手への事情聴取も含め世界選手権前に、事実を明らかにしてほしい」と述べた[18]

韓国スケート連盟は日本スケート連盟に回答文を送り、金妍児の発言は「特定の国や選手を名指ししたのではなく、一般的に選手が遭遇する状況を共有しようとした」もので、「スペースが限られたリンクでウオーミングアップをする時、周囲の選手によく気を付けた方がいいという一般的な状態を金妍児が言おうとしただけ」「われわれはこのような誤解が再び起きないことを望む」と表明した[19]。回答文は日本スケート連盟によって公表された[19]

選手・関係者の反応

金妍兒は世界選手権のためにロサンゼルス入りした後、取材に対して「特定の国の選手に言及したわけではない」「思ったより事が大きくなったが、あまり気にせず大会に集中する」と述べた[20][21]

金のコーチであるブライアン・オーサー(当時)は、「公式練習中に周りを見ていない選手がいて苛立ったことがあるのは事実だが、どこの国の選手と特定したことは一度もない。マスメディアが「日本の選手」と報じたのはライバル関係を煽って話を面白く作り上げるためではないか」と述べている[1]。金も、自らの発言と違う趣旨の番組が作られたことに対し、エージェントを通じてSBSに抗議をしたとされる[1][22]。金とマネジメント契約を結んでいたIBスポーツの対応は「キム・ヨナ選手が何度も妨害されたと感じていたのは事実だが、特定の国を名指ししてはいない」とコメントする程度にとどまり、問題の本質とは関係のないPR的な寄稿文を書いたなどとして一部の韓国メディアから批判を受けた[8]

浅田真央は、記者に「練習妨害発言」について聞かれて「故意に他の選手の練習を妨害することはない」と答えた[23][24][25][26][27][28]。これを受けて、朝鮮日報は「浅田はキム・ヨナに対して妙な神経戦を仕掛けた」と報じた[29]

渡部絵美は「練習はジャッジの見ている前でするから妨害するメリットは全く無い。世界選手権が近いのでキム・ヨナ選手も気が立っていたのでしょう」[30]と書いた。テレビ番組の中でも、「妨害受けたことはあるか」と聞かれて 「しょっちゅうありますよ。試合直前の練習は6分間で、最終調整に入りますので神経質になる。ぶつけに行こうかとか、よぎってやろうかなどと、そこまで余裕のある選手はいないと思いますよ」と答えている[31]

その後の報道

2009年世界選手権中、ニューヨークタイムズは「練習妨害発言」を受けた金妍兒のファンが彼女を守るために集っていると報じ、「韓国民族にとっては、とっても大きな問題だ」「彼女は我々の国宝だ!」というロサンゼルス在住の韓国人の声を伝えた[32]。一方、日本の『週刊ポスト』などのメディアでは、2009年世界選手権で浅田真央の演技後、靴が投げ込まれたとする報道があった[33]

シーズン終了後、『スポーツ朝鮮』は国際スケート連盟の採点規定変更について「日本が資金力を使って強い影響を与えた」という疑惑を報じた[34][34]。同じ記事の中では、ロサンゼルス・タイムズのフィリップ・ハーシュ記者がブログで「韓国のファンから『日本が浅田真央を勝たせるために審判を買収している』というメールが送られ続けている」と書いていることが紹介されている[35]

金妍兒が出演した韓国MBCのバラエティ番組「無限挑戦」(2009年4月25日放送)で、コメディアンが浅田真央を「アサヒダマ」と呼んだり、浅田真央のミスをネタにしたコントを行ったところ、同番組の視聴者掲示板に抗議が殺到した[36]。放送翌日には番組に日本語訳を付けた動画がYouTubeに投稿された。浅田真央に対する中傷的なコントが演じられているのを見て、金妍兒が他の出演者と笑っている場面が話題となり、公開から2日で8万7000回以上再生された。コメント欄では日本語、韓国語、英語により激しい議論が起こった[37]

捏造報道の暴露

「練習妨害発言」を報じたSBSの番組については、その後、取材を担当したレポーターが「『日本人に』というのはSBS側が付け加えたもの」で、今回の報道は「韓国ファンの反日感情を煽り、対決ムードを盛り上げようとしただけだ」と、報道内容が捏造であったことを暴露した[38]

類似の報道

その後も韓国メディアは同様の報道を続けている。2009年11月には朝鮮日報が「日本の村主章枝が金の練習を妨害した」と報じた[39]。2010年バンクーバーオリンピックの際には、中央日報郭珉整のコーチであるチョン・ジェウンが「エレーナ・グレボワが金の練習を妨害した」と言ったと報じた[40]

脚注

  1. ^ a b c d e f 田村明子『パーフェクトプログラム 日本フィギュアスケート史上最大の挑戦』新潮社、2010年3月、pp.201-202
  2. ^ この番組は日本のテレビ局でも一部が放映された。内容については次の記事が詳しい。「キム・ヨナ『日本選手が妨害』 韓国で日本大バッシング」『J-CASTニュース』2009年3月17日更新、2009年3月21日閲覧
  3. ^ a b 前田泰広「ライバルが練習妨害 キムヨナ選手主張」『読売新聞』2009年3月15日、第14版、第38面
  4. ^ a b c 「<フィギュア>キム・ヨナ「日本選手に練習を邪魔された」『中央日報』2009年3月16日更新、2009年3月16日閲覧
  5. ^ a b 「日本スケート界、キム・ヨナの練習妨害発言にピリピリ」『朝鮮日報』2009年3月17日更新、同日閲覧(ウェブ魚拓)
  6. ^ 「フィギュア:ヨナ妨害発言に日本スケート連盟が声明」『朝鮮日報』、2009年3月20日更新、同日閲覧(ウェブ魚拓)
  7. ^ 「ハーフタイム」『朝日新聞』2009年3月20日、第14版、第23面
  8. ^ a b 「ヨナ妨害発言、波紋広がる」『朝鮮日報』2009年3月21日更新(ウェブ魚拓)
  9. ^ 「キム・ヨナ衝撃発言…日本選手が練習妨害」『デイリースポーツオンライン』2009年3月15日更新、2009年3月21日閲覧
  10. ^ 「日本スケート界、キム・ヨナの練習妨害発言にピリピリ」『朝鮮日報』2009年3月17日更新、同日閲覧。
  11. ^ 「김연아 연습방해 논란, 日연맹 한국에 조사 요구」(キム・ヨナの練習の邪魔をめぐる議論、日本連盟、韓国に調査要求) 2009年3月19日更新 (朝鮮語)
  12. ^ 「金妍儿赛前练习中曾受到日本选手集中牵制」『中央日報中国語版』2009年3月16日更新
  13. ^ 일본빙상연맹의 「´적반하장´식 대처」(日本スケート連盟の"居直り反駁"式対処)『Dailian』2009年3月21日更新 (韓国語)
  14. ^ F-skating controversy hots up Asada-Kim rivalry フランス通信社 Mar 17, 2009
  15. ^ a b 「キム・ヨナ選手妨害を日本側否定 韓国報道にファンの抗議殺到」『47ニュース』2009年3月19日更新、2009年3月21日閲覧、共同通信社配信記事
  16. ^ 「フィギュアスケートに関する一部報道について」『日本スケート連盟ウェブサイト』2009年3月19日更新、2009年3月21日閲覧。ただし日本スケート連盟ウェブサイトのリニューアルにより、URLが当初のものから変更された。2010年3月7日に確認、リンク貼替。
  17. ^ 「『ヨナ選手を妨害』韓国に調査要請 日本スケート連盟」『読売新聞』2009年3月20日朝刊、第14版、23面
  18. ^ 「韓国連盟にキム・ヨナの事情聴取を要求…日本スケート連盟」『スポーツ報知』2009年3月20日更新、2009年3月21日閲覧
  19. ^ a b 「韓国スケート連盟が回答 金ヨナ“妨害”報道で」『産経ニュース』 2009年3月23日更新、同日閲覧、ウェブ魚拓(2009年3月23日 22:33 (JST) に記録)
  20. ^ 「피겨 퀸 김연아, 세계선수권 우승 위해 LA 입성」(フィギュア女王キム・ヨナ、世界選手権優勝のためにLA入り) 『スポーツ朝鮮』2009年3月22日更新 (韓国語)
  21. ^ 「ロサンゼルス入りしたキム・ヨナ(3月23日)」『聯合ニュース』2009年3月23日更新
  22. ^ 『パーフェクトプログラム』で田村が取材したエージェントの証言による。ただし、田村も「その『抗議』もなぜなのか、特に公にされることもなく」と書いており、いつごろどのような抗議があったのかは不明。
  23. ^ 「真央ちゃんが出発、故意の妨害は明確に否定」『MSN産経ニュース』2009年3月23日更新、同日閲覧(ウェブ魚拓)
  24. ^ 真央、故意の妨害を否定/世界フィギュア 『SANSPO.COM』2009.3.23(ウェブ魚拓)
  25. ^ 「真央ちゃん否定! 韓国のキム・ヨナ妨害報道」『Sponichi Annex ニュース』2009年3月23日更新(ウェブ魚拓)
  26. ^ 真央ちゃんプチッ!韓国のヨナ妨害報道ありえない!『Sponichi Annex ニュース』2009年3月24日更新(ウェブ魚拓)
  27. ^ 「真央『故意に邪魔したことない』『デイリースポーツonline』2009年3月24日更新(ウェブ魚拓)
  28. ^ 「真央『当たったことない』…24日・世界フィギュア開幕」『スポーツ報知』2009年3月24日(ウェブ魚拓)
  29. ^ 「フィギュア:WBCに続き韓日対決、ヨナ意気込みを語る」 『朝鮮日報』2009年3月25日更新
  30. ^ 『日刊ゲンダイ』2009年3月15日
  31. ^ 「キム・ヨナ『日本選手が妨害』 韓国で日本大バッシング」『J-CASTニュース』2009年3月17日更新、2009年3月21日閲覧
  32. ^ Kim Yu-na Skates While Carrying the Hopes of South Korea New York Times March 26, 2009
  33. ^ 『週刊ポスト』2009年4月17日号
  34. ^ a b ISU 규정 변경 논란에도 일본은 잰걸음(ISUの規定の変更をめぐる議論にも、日本は早足) スポーツ朝鮮 2009.04.23 (韓国語)
  35. ^ フィリップ・ハーシュのブログ記事はAbsurd is the word for skating, swimmingOlympics Blog, Los Angeles Times, 2009.4.22
  36. ^ 「무한도전-김연아편 시청자 혹평봇물 “아사히다마? 세계적 망신살” 굴욕의 실언」(無限挑戦-キムヨナ組視聴者酷評の洪水 “アサヒダマ?世界的恥さらし” 屈辱の失言)『中央日報』2009年4月25日 (韓国語)
  37. ^ 「浅田真央を中傷? キム・ヨナ出演の韓国バラエティ番組動画で物議。」『Narinari.com』2009年4月28日
  38. ^ 西村幸祐「捏造・改変なんでもあり! やっぱり変わらない韓国メディアの「反日無罪」」『SAPIO』2009年5月27日・6月3日号。リンク先は @nifty ニュースに配信されたもの、2009年6月8日更新。
  39. ^ 일본 수구리 후미에, 김연아 연습방해 논란
  40. ^ 【冬季五輪】エストニア選手がキム・ヨナの練習を妨害?

外部リンク