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|英名 = Japanese horsechestnut
}}
'''トチノキ'''(栃の木{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=79}}・栃{{sfn|田中潔|2011|p=96}}・橡の木{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=106}}{{sfn|亀田龍吉|2014|p=102}}・橡<ref name=":0">{{Cite book|和書 |title=[[広辞苑]] |date=2008-01-11 |publisher=岩波書店 |editor=新村出 |edition=第六版 |isbn=978-4-00-080121-8 |page=2019 |location=東京都千代田区一ツ橋2-5-5}}</ref>、[[学名]]: {{Snamei||Aesculus turbinata}})は[[ムクロジ科]]トチノキ属の樹木である。トチ、七葉樹とも呼ばれる<ref name=":0" />
 
== 名称 ==
標準和名はトチノキ。また、木を抜いたトチと呼ばれることも多い。漢字は「栃」が当てられる。標準和名の由来は、[[朝鮮語]]由来、[[アイヌ語]]由来、果実由来など諸説ある。アイヌ語説ではアイヌはこの木を「トチニ」と呼び<ref name="日本樹木名方言集(1916)">農商務省山林局 編 (1916) 日本樹木名方言集. 大日本山林会, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904366}} (デジタルコレクション有)</ref><ref name="分類アイヌ語辞典植物篇(1953)">[[知里真志保]] (1953) 分類アイヌ語辞典. 第1巻 (植物篇). [[神奈川大学日本常民文化研究所|日本常民文化研究所]], 横浜. {{国立国会図書館書誌ID|000000935969}} (デジタルコレクション有)</ref>、これがそのまま和名になったというものである。後述のように「トチ」に近い音の方言名は[[東北地方]]など北日本に多いが、西日本でも見られないわけではない。知里(1953)にも「トチニ」で収録されているが、アイヌ固有の意味は記載がなく日本語とアイヌ語どちらが由来なのかは分かっていない。「ニ」は樹木全体ないし幹を表す音でアイヌ語の樹木名にはよく出てくる単語である<ref name="分類アイヌ語辞典植物篇(1953)"/>。果実由来説では、クリと違い完熟しても蒴果が「閉じている」、また縫われたように「綴じている」様からトヂ、さらに転訛してトチとなった説である<ref>横山健三 (2005) トチノキの呼び名について. 新潟県植物保護 38, p.17-19. {{hdl|10191/10598}}</ref>。種子が十(トォ)も千(チ)も大量に実る様からトチという説もある{{sfn|亀田龍吉|2014|p=103}}。
 
方言名は種類としてはあまり多くなく、「クリ」を意識したものを除けば「トチ」が訛った程度のものが多い<ref name="倉田悟(1963)">倉田悟 (1963) 日本主要樹木名方言集. 地球出版, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000001050277}} (デジタルコレクション有)</ref><ref>高知営林局 編 (1936) 四国樹木名方言集. 高知営林局, 高知. {{国立国会図書館書誌ID|000000716186}} (デジタルコレクション有)</ref>。東北地方ではトチがなまった「トジ」「トヅ」などという名前が多い。[[東海地方]]から[[紀伊半島]]にかけて[[クヌギ]]や[[アベマキ]]などの比較的大きく丸いドングリを付ける種を「トチ」と呼び、トチノキは「ホンドチ」などと呼び分ける地域もみられる<ref>農林省山林局 編 (1932) 樹種名方言集. 農林省山林局, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000000904043}} (デジタルコレクション有)</ref>。クヌギ類とは後述のように漢字表記にも混同が見られ同じ字を使う。クリを模したものは西日本に多く、四国の一部にはトチノキを「[[弘法大師]]のクリ」と呼ぶ地域がある<ref name="倉田悟(1963)"/>。これには大抵以下のような話が伝わる。ある日クリを煮ている村人に対し、通りがかった弘法大師がクリを少し分けてほしいと頼んだが、意地が悪い村人はこの申し出を断った。弘法大師が諦めて去ったあとに村人がクリを食べようとしたが、クリはとても苦くなり食べられなくなってしまったというものである。弘法大師にはこのような伝説が多く、ほぼ同じ内容の話が[[サトイモ]]や[[ナシ]]でも伝わる<ref>五來重 (1941) 弘法大師傳説の精神史的意義 (上). 密教研究 78, p.1-24. {{doi|10.11168/jeb1918.1941.78_1}}</ref><ref>青葉高 (1987) 石芋伝説のサトイモについて. 農耕の技術 10, p.74-88. {{hdl|10.14989/nobunken_10_074}}</ref>。
 
<!--下の段落はマロニエ属の解説?-->
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フランス語名は marronnier(茶色い実のなる木)で種子の色に由来する。フランス語名は[[音写]]した「マロニエ」という名称で{{efn2|植物分類学上では、日本のトチノキとは近縁別種の'''[[マロニエ]]'''({{Snamei|Aesculus hippocastanum}})という[[標準和名]]の植物があり、これは別名セイヨウトチノキともよばれる[[ヨーロッパ]]に分布する西洋種である<ref name="YList_6041">{{YList|id=6041|taxon=Aesculus hippocastanum L. マロニエ(標準)|accessdate=2024-09-08}}</ref>。フランス・[[パリ]]の[[シャンゼリゼ通り]]の街路樹が有名。}}日本でもよく知られており、しばしば通りの名前などにも用いられる。
 
トチノキの[[中国語|中国名]]は日本七葉樹である<ref name="YList"/>。日本語におけるトチの漢字表記は「栃」{{sfn|西田尚道監修 学習研究社編|2009|p=79}}{{sfn|田中潔|2011|p=96}}ないし「橡」<ref name=":0">{{Cite book|和書 |title=[[広辞苑]] |date=2008-01-11 |publisher=岩波書店 |editor=新村出 |edition=第六版 |isbn=978-4-00-080121-8 |page=2019 |location=東京都千代田区一ツ橋2-5-5}}</ref>{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2014|p=106}}{{sfn|亀田龍吉|2014|p=102}}である。「橡」はクヌギを指すこともあるが、その場合は「ツルバミ」と読まれる。
トチノキの[[中国語|中国名]]は日本七葉樹である<ref name="YList"/>。
 
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三重県[[尾鷲市]]周辺には5月の[[端午の節句]]の[[粽]]をササではなく、トチノキの葉で包むところがあるという<ref>[[倉田悟]] (1962) 樹木と方言. 地球出版, 東京. {{国立国会図書館書誌ID|000001040368}}(デジタルコレクション有)</ref>
 
薬用部位とするのは種子と樹皮で、種子を天日乾燥して調製したものは'''娑羅子'''(さらし)と称して[[生薬]]とする{{sfn|貝津好孝|1995|p=51}}。薬効は[[下痢]]、[[扁桃炎]]、[[水虫]]、[[たむし]]、[[打撲]]、[[捻挫]]に効能があるとされ{{sfn|貝津好孝|1995|p=51}}、[[百日咳]]や胃にも効果があるといわれている{{sfn|辻井達一|1995|p=239}}。樹皮は薬用樹[[キナノキ属|キナノキ]]の代用になるといわれている{{sfn|辻井達一|1995|p=240}}。実を水で浸出したものが馬の眼病を治す効果があるという{{sfn|辻井達一|1995|p=240}}。[[民間療法]]では、下痢のときに樹皮を600&nbsp;[[立方センチメートル|cc]]の水で煎じ飲用する。扁桃炎には煎じた液でうがいする{{sfn|貝津好孝|1995|p=51}}。水虫やたむしには、種子を粉末にして煎じた液を患部に塗る。打撲や捻挫には、種子をアルコール漬けにしたものを塗布するなどのものがあるという{{sfn|貝津好孝|1995|p=51}}。アイヌも種子の部分を薬用に使ったという<ref name="分類アイヌ語辞典植物篇(1953)"/>
 
その他にも研究が進められているものがある<ref>吉川雅之 (2002)薬用食物の糖尿病予防成分『化学と生物』40巻 3号 p.172-178. {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172}}</ref><ref>木村英人ら (2009) トチノキ種皮由来の高分子プロアントシアニジンの脂肪消化吸収に対する阻害作用. 日本食品科学工学会誌 56(9), p.483-489. {{doi|10.3136/nskkk.56.483}}</ref>。
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=== 木材 ===
[[道管]]の配置は散孔材で気乾比重は0.5程度、全体に淡い黄褐色で辺材と心材の境界や年輪は不明瞭である<ref>貴島恒夫, 岡本省吾, 林昭三 (1962) 原色木材大図鑑. [[保育社]], 東京大阪. {{国立国会図書館書誌ID|000001030638}} (デジタルコレクション有)</ref>。手触りの良さや加工性の良さで家具材として評価の高い樹種である。
 
材は緻密で加工がしやすく割れにくい特性があり、乳白色で、製材すると表面が滑らかで不規則な繊維の配列が絹のような光沢を作り、綺麗な[[杢目]]が出ることが多く、いわゆる「栃杢」(とちもく)をつくる{{sfn|田中潔|2011|p=96}}。真っ直ぐ伸びる木ではないので変化に富んだ木材となりやすい。比較的乾燥しにくい木材ではあるが、乾燥が進むと割れやすいのが欠点である。