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'''大伴坂上郎女'''（おおとものさかのうえのいらつめ、[[生没年不詳]]）は、『[[万葉集]]』の代表的[[歌人]]。[[大伴安麻呂]]と[[石川内命婦]]の娘<ref>『万葉集』巻4、667左注、母名記載</ref>。▼
▲'''大伴坂上郎女'''（おおとものさかのうえのいらつめ、生没年不詳）は、『万葉集』の代表的歌人。[[大伴安麻呂]]と石川内命婦の娘。
[[大伴稲公]]の姉で、[[大伴旅人]]の異母妹。[[大伴家持]]の叔母で姑でもある。『[[万葉集]]』には、個入第3位の歌数で、[[長歌]]・[[短歌]]合わせて84首が収録され、[[額田王]]以降、最大の女性歌人である。坂上郎女の通称は坂上の里（現・[[奈良市]]法蓮町北町）に住んだためとされている（『万葉集』）<ref name="525-528歌左注">『万葉集』巻4、525から528歌左注「保大納言大伴安麻呂の娘であり、初めに穂積皇子に嫁し、たぐうことなき寵愛を受けた。そして皇子の薨（こう）ぜられた後、藤原麻呂、郎女を娉（つまどう）（妻にした）。坂上（さかのうへ）の里に家居（いへい）す。よりて族氏号（なづ）けて坂上郎女といふ。」</ref>。
== 経歴 ==
16、7歳頃に、[[穂積親王|穂積皇子]]に[[妃]]として嫁ぐが、[[霊亀]]元年（[[715年]]）に18、9歳で死別する{{sfn|『大伴家持の研究』|pp=133-134}}。この頃、首皇子（[[聖武天皇]]）と親交を持ったようである。その後に[[藤原麻呂]]の恋人となるが<ref name="525-528歌左注" />、別離後に、天平9年（737年）7月13日に麻呂が当時流行していた[[天然痘]]で亡くなる。[[養老]]8年（724年）頃、異母兄の[[大伴宿奈麻呂]]の妻となり、[[坂上大嬢]]と[[坂上二嬢]]を産んだが<ref>『万葉集』巻4、759左注「右は、田村大嬢（おほをとめ）と坂上大嬢と、並びにこれ右大弁宿奈麿卿の娘なり。卿は田村の里に居（す）み、号（な）を田村大嬢といへり。ただ、妹の坂上大嬢は、母、坂上の里に居む。よりて坂上大嬢といへり。時に姉妹諮問（とぶら）ふに、歌を以ちて贈答せり。」</ref>、その後、早くに死別したと思われる{{sfn|『大伴家持の研究』|p=135}}。氏長の[[大伴旅人]]は、[[大宰府]]に[[大宰帥|帥]]で赴任するが、[[神亀]]5年頃、妻を任地で亡くし{{sfn|岡田喜久男|1990|p=7}}、郎女はそのもとに赴き、太宰帥の家で同居し[[大伴家持]]、[[大伴書持]]を養育したといわれる{{sfn|『太宰府発見』|p=137}}。この間の歌は（万葉集巻4-563・564）相聞歌2首しかない。その2年後、天平2年（730年）6月に旅人も脚の腫れ物で重態になり、立ち会う証人者を呼び遣言するが、持ちなおす<ref>万葉集4巻566・567左注</ref>。同年11月郎女は先行して大和へ旅立つ{{sfn|『大伴家持の研究』|p=137}}。だが、同年12月に旅人が帰京するが<ref>『万葉集』巻3、446-450題詞「天平二年庚午冬十二月大宰帥大伴卿向京上道之時作歌五首」</ref>、その7か月後、天平3年7月25日旅人が亡くなる（『[[続日本紀]]』）。
旅人亡き後は、[[大伴氏]]の本宅の佐保邸で、大伴氏の刀自（婦人の長老）として、[[大伴氏]]の一族を支えて、家政を取り仕切り、宗廟の祭祀、親戚の宴を主催した{{sfn|『大伴家持の研究』|p=149-152}}。皇族ではない異例の、佐保邸（万葉集巻4-721)や、春日の里（同725・726）の個人地で詠んだ奉納歌を、聖武天皇に献歌していて、勢力が拡大する新興貴族の[[藤原氏]]に対抗して、[[氏長者]]の家持がまだ若い既存貴族の大伴一族を守るためと指摘されている<ref>{{Cite book|和書|author=久米常民 |title=萬葉集の文学論的研究 |publisher=桜楓社 |year=1970 |ISBN=4273010178 |NCID=BN01024597 |page=437}}</ref>{{sfn|岡田喜久男|1990|p=5-6,10}}。郎女の作風は多分に技巧的でありながらも、豊かな叙情性をも兼ね備えている。しかし、彼女の数多い男性との相聞歌は、恋の歌になぞらえて、私的な宴で披露されたり<ref>{{Cite journal|和書|author=寺川眞知夫 |date=2007-06 |url=https://doi.org/10.15020/00001092 |title=万葉集の相聞歌と声の歌 |journal=同志社女子大学日本語日本文学 |ISSN=0915-5058 |publisher=京田辺 |volume=19 |pages=33-53 |doi=10.15020/00001092 |naid=120005666647 |CRID=1390290699732934272}} p.42-43 より</ref>、彼らへの親しみを表したものであって、実体験ではないと言われている<ref>[[青木生子]]「大伴坂上郎女 - 天平の女歌」『青木生子著作集第8巻 女流歌人篇』[[おうふう]] 1998年</ref>。
==作品==▼
*今もかも大城の山にほととぎす鳴き響（とよ）むらむわれなけれども-都に帰った後に大宰府を思いだして詠んだもの▼
*ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ-月を詠んだ歌▼
天平勝宝2年（750年）、娘婿となった家持が[[国守]]として[[越中国]]に赴任し、妻として同行していた娘の大嬢に贈った歌「大嬢に賜ふ歌」（万葉集19巻-4220・4221）が 郎女の最後の歌となる{{sfn|岡田喜久男|1988|p=7}}。
==参考文献==▼
== 研究 ==
{{DEFAULTSORT:おおとものさかのうえのいらつめ}}▼
* 妻でもない阪上郎女が親族派遣地に赴くのは極めて珍しい。これについて、[[渡瀬昌忠]]は、亡くなった大伴郎女は中央官の京官三位死去に準じて旅人により朝廷に死亡報告され、折り返し忌使が派遣された。さらに現職の官人の死去に準じた扱いで大和から賜物が駅使により運ばれ献じられた。これは通常の官婦死去の扱いではなく、大伴郎女は、旅人が大宰帥として[[神功皇后]]・[[応神天皇]]などの皇祖霊を祭祀するときに、それを助ける厳媛（いづひめ）（大伴氏の上級女性が継承する[[巫女]]）として朝廷の公職で派遣されたとする。そして、坂上郎女はその後任として厳媛として選任され下ったとの説を唱えている<ref>渡瀬昌忠「大伴阪上郎女（序説）大宰帥の家へ」『万葉の女人像』〈笠間選書56〉[[上代文学会]]（編）[[笠間書院]]、1976年、pp215-221</ref>。
[[Category:奈良時代の人物]]▼
* 聖武天皇への阪上郎女の献歌は、在来の夫人からの献歌で、天皇に対して、これはなかなかできないものであり、[[中西進]]は、これが可能だったのは具体的な旧公職関係だったからだとする。天平11年前後に阪上郎女は宮廷に出仕して、奈良時代には宮人の範囲である[[命婦]]として聖武天皇に仕えたのではないか、と推定している<ref>中西進『天平の女たち』『中西進万葉論集』第5巻（万葉史の研究 下）講談社、1996年</ref>。これには、命婦なら奉歌・秦歌であり、阪上郎女は3首すべて献歌であり、それで返歌がない。そして公職だったのなら命婦などを万葉集に書き漏らすはずがない、との疑問も提示されている<ref>小野寺静子『坂上郎女と家持:大伴家の人々』[[翰林書房]]、2002年、pp.238、247、261</ref>。春日の里（同725・726）献歌は、母・石川命婦が死去して、その仲立ちとした宮廷へのつながりが絶たれ、坂上郎女は母に代わって宮中と大伴一族を繋ぐ役割りとなり、重ねて天皇へ献歌した、と推定されている<ref>小野寺静子『坂上郎女と家持:大伴家の人々』翰林書房、2002年、p.35</ref>。
* 阪上郎女の文学的才能は母・石川郎女の宮廷歌から受け継いで拡大したものと思われるが、その一族で果たしていた役割も生活環境も、坂上郎女が石川郎女から受け継いだものは大きい<ref>小野寺静子『坂上郎女と家持:大伴家の人々』翰林書房、2002年、pp.33、35</ref>。
▲== 作品 ==
▲* 今もかも大城の山にほととぎす鳴き響（とよ）むらむわれなけれども - 都に帰った後に大宰府を思いだして詠んだもの
▲* ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ - 月を詠んだ歌
* [[今昔秀歌百撰]]で大伴坂上郎女,は13番で、佐保河の小石践み渡りぬばたまの黒馬の来る夜は年にもあらぬか（出典：[[万葉集]]巻四、選者：角山正之（[[船橋市立市場小学校]][[校長]]））
* 古郷の飛鳥はあれど青丹よし平城（なら）の明日香を見らくしよしも（古郷之 飛鳥者雖有 青丹吉 平城之明日香乎 見楽思奴裳）- 詠んだ地の[[瑜伽神社 (奈良市)|瑜伽神社]]、[[天神社 (奈良市高畑町)|奈良町天神社]]付近の[[奈良市]]高畑町北側の丘陵は、当時は[[大和三山]]が天候により遠望できて「平城（なら）の飛鳥」と呼ばれ、はるか明日香を懐かしむとともに奈良もいいと期待する。地名にないが名前は[[奈良市立飛鳥小学校|飛鳥小学校]]、[[奈良市立飛鳥中学校|飛鳥中学校]]に残る。（『万葉集』巻6 992）
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
▲== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=尾山篤二郎 |author-link=尾山篤二郎 |title=大伴家持の研究 |publisher=平凡社 |year=1956 |id={{全国書誌番号|56008828}} |doi=10.11501/1343302 |url=https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1343302 |ref={{harvid|『大伴家持の研究』}}}}
* {{Cite book|和書|author=森弘子 |title=太宰府発見 : 歴史と万葉の旅 |publisher=海鳥社 |year=2003 |ISBN=4874154220 |id={{全国書誌番号|20376601}} |url=https://id.ndl.go.jp/bib/000004031384 |ref={{harvid|『太宰府発見』}}}}
* [[桶谷秀昭]] 『今昔秀歌百撰』（コンジヤクシウカヒヤクセン）不出售（フシユツシウ）[[特定非営利活動法人]]文字文化協會 2012年 ISBN 978-49905312-25
* {{Cite journal|和書|author=岡田喜久男 |date=1988-11 |url=https://ypir.lib.yamaguchi-u.ac.jp/bg/818 |title=大伴坂上郎女論 上 |journal=日本文学研究 |ISSN=02862948 |publisher=梅光女学院大学日本文学会 |volume=24 |pages=1-12 |naid=110000993766 |CRID=1050564287394758016 |ref=harv}}<!--岡田喜久男|1988-->
* {{Cite journal|和書|author=岡田喜久男 |date=1990-11 |url=https://ypir.lib.yamaguchi-u.ac.jp/bg/973 |title=大伴坂上郎女論 下 |journal=日本文学研究 |ISSN=02862948 |publisher=梅光女学院大学日本文学会 |volume=26 |pages=1-12 |naid=110000993801 |CRID=1050282812418047104 |ref=harv}}<!--岡田喜久男|1990-->
* 小野寺静子『坂上郎女と家持:大伴家の人々』[[翰林書房]]、2002年
== 外部リンク ==
* [https://researchmap.jp/kaizen/%E4%BB%8A%E6%98%94%E7%A7%80%E6%AD%8C%E7%99%BE%E6%92%B0// 今昔秀歌百撰] {{ja icon}}
== 関連項目 ==
{{Portal|文学|[[ファイル:Lit.jpg|65px]]}}
{{Normdaten}}
▲{{DEFAULTSORT:おおとも の さかのうえのいらつめ}}
[[Category:8世紀日本の女性]]
[[Category:8世紀日本の女性著作家]]
[[Category:8世紀の歌人]]
[[Category:日本の女性歌人]]
[[Category:日本の皇族の妃]]
[[Category:万葉歌人]]
[[Category:大伴氏|さかのうえいらつめ]]
[[Category:生没年不
▲[[Category:没年不明]]
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