|科 = [[サケ科]] [[:w:Salmonidae|Salmonidae]]
|亜科 = [[サケ亜科]] [[:w:Salmoninae|Salmoninae]]
|属 = [[タイヘイヨウサケ属]] ''[[:w:Oncorhynchus|Oncorhynchus]]''
|種 = '''[[サクラマス]]([[ヤマメ]])''' ''[[w:Oncorhynchus masou|O. masou]]''
|亜種 = '''ビワマス''' ''O. m. rhodurus''
|英名 = [[:en:Biwa trout|Biwa trout]]<br/>[[:en:Biwa trout|Biwa salmon]]
}}
'''ビワマス'''('''琵琶鱒'''、学名:''Oncorhynchus masou rhodurus''、英:{{lang-en-short|[[:en:Biwa trout|Biwa trout]]}})は、[[サケ目]][[サケ科]]に属する[[淡水魚]]。日本の[[琵琶湖]]にのみ生息する[[固有亜種]]である。産卵期には大[[雨]]の日に群れをなして河川を遡上することから、'''アメノウイオ'''<ref>{{Cite web|和書|publisher=[[滋賀県]]|url=https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/suisan/18668.html|title=ビワマス|date=2023-03-13|accessdate=2024-03-13}}</ref>(アメノウオ、雨の魚、{{要出典範囲|date=2024年3月12日 (火) 23:56 (UTC)|鯇、鰀、江鮭}})ともよばれる。
体側の朱点(パーマーク)は、体長20cm20 cm程度で消失し成魚には見られない。成魚の全長は40 - 50cm50 cmほどだが、大きいものでは全長70cm70 cmを超えることもある。[[サクラマス]]と同じく[[ヤマメ]]の亜種であり、[[デオキシリボ核酸|DNA]]の特徴も外観もサクラマスに近いが、サクラマスよりも眼が大きいことと、側線上横列鱗数が21 - 27でやや少ない事で見分けられる。[[琵琶湖]]固有亜種だが、現在では栃木県[[中禅寺湖]]、神奈川県[[芦ノ湖]]、長野県[[木崎湖]]などに移殖されている。また、人工孵化も行われている。
== 生態 ==
他のサケ科魚類と同様に母川回帰本能を持つため、成魚は10月中旬 - 11月下旬に[[琵琶湖]]北部を中心とする生まれた川に遡上し、産卵を行う。餌は、主に[[イサザ]]、[[スジエビ]]、[[アユ|コアユ]]を捕食している。
[[File:Oncorhynchus masou rhodurus.jpg|200px|thumb|right|パーマークの残る幼魚]]
産卵の翌春孵化(浮上)した稚魚はサケ類稚魚によく見られる小判型の[[パーマーク]]と、[[アマゴ]]に似た赤い小さな朱点がある。約8cm8 cmに成長すると[[スモルト]]化し体高が減少すると共に体側と腹部が銀白色となる。但し、ビワマスの特徴としてアマゴより4cm4 cm程度小さくスモルト化しパーマークは完全に消失せず朱点も残る個体が多い<ref>藤岡康弘、「[https://doi.org/10.2331/suisan.53.253 藤岡康弘、ビワマスのパー・スモルト変態]」『日本水産学会誌』 Vol.53 (1987) No.2 Pp.253-260, {{DOI|10.2331/suisan.53.253}}</ref>。スモルト化した個体は5月から7月に川を下って琵琶湖深場の低水温域へ移動し、[[コアユ]]や[[イサザ]]等の小魚、[[エビ]]、[[水生昆虫]]等を捕食しながら2年-5年かけて成長する。小数の雄はスモルト化せずに川に残留する<ref>桑原雅之、井口恵一朗、「[https://doi.org/10.11369/jji1950.40.495 桑原雅之、井口恵一朗、ビワマスにおける河川残留型成熟雄の存在] 」『魚類学雑誌』 Vol.40 (1993-1994) No.4 Pp.495-497, {{DOI|10.11369/jji1950.40.495}}</ref>。
生育至適水温は15℃15 ℃以下とされ、中層から深層を回遊する。孵化後、1年で12cm12 cmから17cm17 cm、2年で24cm24 cmから30cm30 cm、3年で30cm30 cmから40cm40 cm、4年で40cm40 cmから50cm50 cmに成長する。産卵期が近づくと、オス・メスともに[[婚姻色]]である赤や緑の雲状紋が発現し、餌を取らなくなる。オスは特に婚姻色が強く現れ、上下の両顎が口の内側へ曲がる「鼻曲がり」を起こす。メスは体色がやや黒ずむ。川への遡上は9月から11月で、産卵が終わると親魚は寿命を終える。なお、琵琶湖にも近縁亜種のアマゴが生息<ref>加藤文男、「[https://doi.org/10.11369/jji1950.25.197 加藤文男、琵琶湖水系に生息するアマゴとビワマスについて]」『魚類学雑誌』 Vol.25 (1978-1979) No.3 P197p.197-204, {{DOI|10.11369/jji1950.25.197}}</ref><ref>加藤文男、「[https://doi.org/10.11369/jji1950.28.184 加藤文男、琵琶湖で獲れたアマゴ] 」『魚類学雑誌』 Vol.28 (1981-1982) No.2 P184p.184-186, {{DOI|10.11369/jji1950.28.184}}</ref>しており本種と誤認されている場合もある。
琵琶湖産稚[[アユ]]と混獲され各地の河川に放流されていると考えられるが、下降特性が強い事と海水耐性が発達しないことから、放流先での定着は確認されていない<ref>{{PDFlink|[http://salmon.fra.affrc.go.jp/kankobutu/tech_repo/fe02/fishandegg159_p25-38.pdf ビワマス]}} - 水産総合研究センター さけますセンター</ref>。
;計測形質<ref>{{PDFlink|[http://www.nature.museum.city.fukui.fukui.jp/shuppan/kenpou/49/49-53-77.pdf 日本産サケ属(''Oncorhynchus'')魚類の形態と分布]}} - 福井市自然史博物館</ref>
* 側線上横列鱗数:21 - 27
* 幽門垂数:46 - 77
外観上は、前述のとおり「眼や側線上横列鱗数」の差異があるが、生態は湖沼陸封期間が10万年と長かったことから、[[サツキマス]]([[アマゴ]])と比較すると海水耐性が失われスモルト化した個体でも海水耐性は発達せず、100%海水では死滅する。
遺伝子解析の結果ではサクラマスよりはサツキマスに近く、サクラマスとサツキマスの分化以降にビワマスとサツキマス(アマゴ)は分化している。つまりサツキマス(アマゴ)との共通祖先のうち淀川水系を利用していた個体群が陸封され、ビワマスとなった<ref>石黒直哉、「[httphttps://hdl.handle.net/10461/3127 石黒直哉、サクラマス3亜種のミトコンドリアゲノム全塩基配列の比較] 」『福井工業大学研究紀要』 第一部 37巻, 2007年, p.243-250, {{hdl|10461/3127}}</ref>。
== 保全状態評価 ==
{{準絶滅危惧}}
近年の琵琶湖では[[ブラックバス]]などの[[外来種]]によって生態系や漁業へ大きな影響が出ており、問題となっている。ただしビワマスの生息数は40万 - 50万尾で、外来魚がほとんど存在しなかった数十年前とほぼ同様の生息水準が保たれている。滋賀県水産試験場の調査によると、これはスモルトが川を下って琵琶湖の深場へ移動する際、[[コイ科]]魚類のように浅場に長時間留まらず、素早く河川を下って深場へ移動するので、琵琶湖上層部を生息域とする外来魚の影響を受けにくいためと考えられている。<!--fact :出典は自身の水産試験場への取材による-->増殖の為に、サケと同様に人工ふ化した稚魚の放流(1883年から<ref name="suisan.80.45"/>)や成魚販売用の養殖も行われている。
=== 漁業 ===
主に刺網漁法と引縄釣(トローリング)法により漁獲される。資源保護の為に全長25cm以下のビワマスは採捕禁止で<ref>[http://www.pref.shiga.lg.jp/jourei/reisys/340902100006000000MH/340902100006000000MH/340902100006000000MH.html 滋賀県漁業調整規則] 滋賀県</ref>2008年12月から引縄釣法による漁獲の届出制度が導入<ref>亀甲武志, 西森克浩, 井出充彦, 関慎介, 二宮浩司, 菅原和宏, 「[https://doi.org/10.2331/suisan.75.1102 琵琶湖におけるビワマス引縄釣遊漁者を対象とした届出制の導入] 」『日本水産学会誌』 Vol.75 (2009) No.6 Pp.1102-1105, {{doi|10.2331/suisan.75.1102}}</ref>されたが、[[2013年]]12月1日より承認制度になった。また、禁漁期間(10月1日から11月30日まで)が定められ、採捕報告書の提出が義務付けられた<ref>[http://www.pref.shiga.lg.jp/g/suisan/yugyo-rule/hikinawa/hikinawa-onegai.html ビワマスの引縄釣遊漁者の皆様へ] 滋賀県</ref>。2008 - 2011年の採捕報告書によれば、引縄釣により年間約1万尾が捕獲されるが半数程度が再放流され、 6.6t6 tから8.6t6 tが引縄釣遊漁者により 23.2tから45.8tが刺網漁法により捕獲されている<ref name="suisan.80.45">菅原和宏, 井出充彦, 酒井明久, 鈴木隆夫, 久米宏人, 亀甲武志, 西森克浩, 関慎介,「[https://doi.org/10.2331/suisan.80.45 菅原和宏ほか、琵琶湖における届出制によるビワマス引縄釣遊漁の現状把握]」 滋賀県農政水産部水産課 『日本水産学会誌』 Vol.80 (2014) No.1 p.45-52, {{DOI|10.2331/suisan.80.45}}</ref>。なお、再放流個体の生存率は不明である<ref name="suisan.80.45"/>。
== 食用 ==
ほとんどが刺し網漁で捕獲される。 非常に美味生涯を淡水で あ過ごす事から寄生虫が無く冷凍せずとも生食できると言われており 、また加熱しても[[サケ ]]や[[科|サ クラマスケ]] と同様類特有の 調理臭みが できる比較的少ない。[[刺身 ]]、[[寿司]]、[[揚げる|揚げ物]]、[[ムニエル]]、[[煮る|煮付け]]、[[塩焼き]]、[[燻製]]など 、様々な料理で食べられ 、どれも美味である。 <ref>{{Cite web |title=ビワマスについて {{!}} びわこ水産 ゑびす |url=https://ebisu-biwa.jp/about/ |date=2022-07-26 |access-date=2024-08-04 |language=ja |first=びわこ水産 |last=ゑびす}}</ref>なお産卵期に川を遡上するものは、旨み成分である[[アミノ酸]]類や脂肪分が[[卵巣]]や[[精巣]]の形成及び上皮の強化に使われてしまうため、琵琶湖を[[回遊]]中のスモルトの方が美味とされる。 ▼
[[ファイル:Grilling with salt-rhodurus.jpg|thumbnail|205px|調理例([[塩焼]])]]
[[ファイル:Rhodurusっ子(魚卵)のしょうゆ漬.JPG|right|thumbnail|205px|調理例([[イクラ|マス子の醤油漬け]])]] ▼
▲ほとんどが刺し網漁で捕獲される。非常に美味であり[[サケ]]や[[サクラマス]]と同様の調理ができる。[[刺身]]、[[揚げる|揚げ物]]、[[ムニエル]]、[[煮る|煮付け]]、[[塩焼き]]、[[燻製]]など、様々な料理で食べられる。なお産卵期に川を遡上するものは、旨み成分である[[アミノ酸]]類や脂肪分が[[卵巣]]や[[精巣]]の形成及び上皮の強化に使われてしまうため、琵琶湖を[[回遊]]中のスモルトの方が美味とされる。
[[イクラ]]よりもやや小ぶりの卵は、主に[[醤油]]漬や塩漬等にするがして食され、海産サケ・マス類のイクラよりも生臭さが少なく美味であると言われる。ほとんど流通していないことから[[珍味]]としても扱われる。この他には「[[はらこ飯]]」と同様の「アメノウオ[[あめのいおご飯]]<ref>{{Cite web|和書|website=うちの郷土料理|publisher=[[農林水産省]]|url=https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/amenoio_gohan_shiga.html|title=あめのいおご飯」 滋賀県|accessdate=2024-03-13}}</ref>や、[[イクラ丼]]と同様の[[丼物]]にする。
<gallery>
▲[[ファイル:Rhodurusっ子(魚卵)のしょうゆ漬.JPG |right|thumbnail|205px|調理例([[イクラ|マス子の醤油漬け]]) ]]
ファイル:20240714 biwamasubutteryakiju.jpg|調理例(バター焼き重)
ファイル:20240714 biwamasutirasizusihuju.jpg|調理例(チラシ寿司風重)
</gallery>
== 脚注 ==
{{Commonscat|Oncorhynchus rhodurus}}
* [[魚の一覧]]
* [[サケ類]]
* [[マス]]
* [[サクラマス]](降海型)・[[ヤマメ]](陸封型)
* [https://doi.org/10.11233/aquaculturesci1953.39.413 加藤文男、ビワマスのスモルトとその鱗にみられる稚魚輪について]水産増殖 Vol.39 (1991) No.4 P.413-421, {{DOI|10.11233/aquaculturesci1953.39.413}}
* [http://www.lbm.go.jp/tenji/suizoku/guide/s1.html#S1-5 ビワマス] - [[滋賀県立琵琶湖博物館]]
* [httphttps://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/50860.html ビワマス] 国立環境研究所
* [http://www.fishbase.org/Summary/SpeciesSummary.php?id=4731&CFID=3047032&CFTOKEN=70070799 FishBaseによる解説(米語)]
* [{{Wayback|url=http://homepage1.nifty.com/hhmm/masu/sub-mtext/tw-masu.html |title=タイワンマス(櫻花鉤吻鮭)とは?] |date=20010222061348}} - サクラマスのいろいろ
* 桑原雅之、「[https://doi.org/10.11369/jji.60.63 ビワマス:その利用と保全] 」『魚類学雑誌』 Vol.60 (2013) No.1 p.63-67, {{DOI|10.11369/jji.60.63}}
{{鮭}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:ひわます}}
[[Category:タイヘイヨウサケ属]]
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