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'''オンド・マルトノ''' (Ondes Martenot) とは、[[フランス]]人電気技師[[モーリス・マルトノ]]によって[[1928年]]に発明された、[[電気楽器]]および[[電子楽器]]の一種である<ref>Technique de l'onde électronique, Jeanne Loriod, ed. Alphone Leduc, préface p. VII</ref>。
鍵盤(英名キー key 、仏名クラヴィエ clavier )またはその下につけられたリボン(英名リボン ribbon 、仏名リュバン ruban )を用いて望む音高を指定しつつ、強弱を表現する特殊なスイッチ(英名タッチ touch 、仏名トゥッシュ touche )を押し込むことによって音を発することができる。多くの鍵盤型電子楽器が[[オルガン]]同様両手の同時演奏や和音による複数の音を同時に発することができるのに対し、オンド・マルトノはテレミン([[テルミン]])に類似しており、基本的には単音のみの発音しかできない。
鍵盤とリボンによる2つの奏法、特に'''リボン'''を用いた鍵盤に制限されない自由な音高の演奏、'''トゥッシュ'''と呼ばれる特殊なスイッチによる音の強弱における様々な[[アーティキュレーション]]表現、多彩な音色合成の変化、複数の特殊なスピーカーによる音響効果によって、様々な音を表現することが可能である。
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以下の分類はTechnique de l'onde électronique [[ジャンヌ・ロリオ]]著に基づくものである<ref>Jeanne Loriod préface p. VII-VIII</ref>。
最初オンド・ミュジカル Ondes musicales (音楽電波)と
一般にオンド・マルトノと呼ばれる楽器の形が整ったのは第5世代からで、オンド・マルトノのために書かれたほとんどの作品は第5世代以降の形において初めて演奏可能である。
=== 第1世代(1918年) ===
第1世代はテレミン([[テルミン]])を真似てほぼ全く同じ原理のものが作られた。これはもちろんモーリス・マルトノのオリジナルではなく単にテ
[[第一次世界大戦]]において通信技師を務め、三極真空管の発する振動原理に対し興味を持っていたマルトノが、テ
=== 第2世代(1928年) ===
第1世代がテ
この世代をもって初めてオンド・マルトノが発明されたことになる。
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=== 第3世代(1931年) ===
第3世代は楽器前面の木枠に鍵盤を模した絵が書かれたが、これは
=== 第4世代(1932年) ===
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=== トゥッシュ、鍵盤、リボン ===
==== トゥッシュ ====
トゥッシュは後述の操作盤についており、オンド・マルトノの鍵盤よりも分厚く、色は白だがピアノの黒鍵が一本だけついているような形をしている。全体の演奏表現を司るこのトゥッシュはオンド・マルトノの演奏で最も重要な部分であり、弦楽器における弓に相当する。トゥッシュを押し込む際のさわり心地は非常に柔らかく、グランドピアノのように繊細な指の加減が要求される。この感触は内部の和ばさみ型金属
左手は通常トゥッシュに置かれるが、鍵盤を広域に使う奏法(後述の[[トレモロ]]など)が必要な場合は両手で鍵盤を演奏する場合もある。このトゥッシュは通常左手人差し指で演奏されるが、'''ペダル'''によって足でも演奏可能であり、両手で鍵盤を演奏する場合に使われる。しかし左手で演奏した方がより細かな表情を表現できる。
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リボンの指輪部分は右手の人差し指に嵌め、同じ右手で鍵盤も弾く。リボンは鍵盤の手前に平行についており、その下に音高の位置を示す凹凸がつけられている。鍵盤の白鍵にあたる部分はくぼみ、黒鍵の部分は突起がついており、手元を見なくても指の感覚ですぐに音高を察知できる。また奏者は半音単位で隣接した音へゆっくり[[グリッサンド]]で移動して演奏する場合、このくぼみや突起の周りを指で円形になぞる事によってグリッサンドをかける。これはその円周によって指の運動が大きくなり、単に指を平行移動指せてグリッサンドするよりも細かく正確に指のコントロールが利くからである。
鍵盤とリボンの奏法は左手にある切り替えスイッチを楽譜上の指定(クラヴィエ clavier 、リュバン ruban )によって弾き分ける。この際、右手人差し指の位置によって音程が変わってくるので、瞬間的な切り替えには注意が必要である。リボンの音高範囲も鍵盤と同じC1からB6までであり、鍵盤のオクターヴ切り替えスイッチと連動してB7まで拡張可能。ただしC1-B7を一気にグリッサンドで駆け上がることはこの切り替えスイッチの問題で出来ず、C1-B6またはC2-B7に制限される。鍵盤奏法と同様、トリル用ボタンを併用すれば通常C9、非実用的ではあるが最大C#9まで音高を拡張できる。
リボンでの奏法の際は常にグリッサンドがかかる。離れた音に移る場合は、トゥッシュを押し込まなければ音が発せられないが、フレーズもそこで切れる。鍵盤で2つ以上の音を順次演奏した際は瞬時に音が立ち上がり固い音の印象になるが、リボンでの奏法は鍵盤よりも音の立ち上がりが遅く、柔らかい印象を持つ。
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鍵盤の左側には音色を決めるボタンがついており、引き出しのように本体から出して操作する。様々な音色を変化させながら奏でることが可能である。このボタンが集まった場所つまり操作盤を、「引き出し」英名:ドローワー drawer 、仏名:ティロワール tiroir とよぶ(英名:ボタン・テーブル button table 、仏名:タブル・デ・ブトン table des boutons と呼ぶ記述も見られる)。操作盤の全体よりも右側寄りのところに、演奏の要であるトゥッシュがついている。
アンドレ・ジョリヴェのオンド・マルトノ協奏曲では「[[トランペット]]のように」「[[ピッコロ]]のように」と既存の楽器の音色に似せる指示があるが、後年の多くの作品ではこのボタン配分を完全に指定する場合が多い(メシアンについては後述)。
==== 操作性 ====
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* O オンド onde [[正弦波]]、サインウェーヴ
* C クルー creux 中空の意味。[[三角波 (波形)|三角波]]、トライアングルウェーヴ
* N ナジヤール nasillard 鼻声の意味。[[のこぎり波]]、ソーウェーヴ
* G ガンベ Gambé [[矩形波]]、スクウェアウェーヴ
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操作盤の枠内ではなく鍵盤の左脇奥に、[[クリック]]音を挿入するためのスイッチがある。これを入れると、鍵盤を押すたびに磁石が打ち合わされることにより、発信される信号音の上に磁石の仕掛けでクリックノイズが乗る。例えばN (Nasillard) の音色と組み合わせると、発音した瞬間のノイズと合わさって、チェンバロが伸びたような印象の音になる。
ただし、このノイズは鍵盤を押し込みまたは離した時のみに鳴り、リボン奏法や、鍵盤を用いても鍵盤を押しっぱなしにしてトゥッシュのアーティキュレーションで演奏する際には鳴らない。オンド・マルトノの[[スタッカート (音楽)|スタッカート]]奏法は[[ピアノ]]のように鍵盤上を指で跳ねるのではなく、右手で鍵盤を常に押さえつつ左手のトゥッシュを瞬間的に押して離すことによって得られるので、このスタッカート奏法とクリックノイズを併せることは不向きだが、逆に[[レガート]]奏法と、そのレガートのフレーズの終わりにスタッカート奏法を併用すると特に効果的である。
==== 第6世代における操作盤 ====
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第7世代モデルに比べて制限される機能は以下の通り。
* スピーカーの出力が3つまでしかない。
* スフル(息、ノイズ)出力機能がない。
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=== スピーカー ===
[[ファイル:Ondes-diffuseurs 2006.jpg|200px|right|thumb|スピーカー。左からメタリック、パルム、プランシパルおよびレゾナンス]]
[[ファイル:Ondes-diffuseurs-derrieres.jpg|200px|right|thumb|メタリックとパルムの裏側]]
4種類の[[スピーカー]](仏名オーパルールhaut parleur)(ただしオンド・マルトノでは英名ディフューザーdiffuser、仏名ディフューズールdiffuseurと呼ぶ)を切り替えることによって、音にいろいろなエフェクトをかけることも可能。これらにはD1からD4までの番号が振られている。Dはディフューザーを意味する。
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: 最も主要なスピーカー。特別なエフェクトはかからず、通常のスピーカーと同様の役割を持つ。
; D2 (英名レゾナンス resonance 、仏名レゾナンス résonance)
: 複数の太い金属
; D3 (英名メタリック metallic 、仏名メタリック métallique)
: [[銅鑼]]([[ゴング]]あるいは[[タムタム]])を吊るして電極を通したスピーカーで、その銅鑼の持つ金属的で不規則な倍音を共鳴させるスピーカー。鋸形波(N)やホワイトノイズ(S)と良く響き合う他、正弦波(O)でもグリッサンドを用いることによって銅鑼の倍音が共鳴する。
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このD1からD4までの各フォーンプラグ端子接続は入れ替え可能であり、古い曲ではレゾナンスを伴わずに、D2がメタリック、D3がパルムを意味する楽譜もある。楽譜冒頭で各番号がどのスピーカーを意味するのか明記する必要がある。D2とD3は操作盤右側の回転レバーで音量を調節できる。これはトゥッシュとは別に各スピーカー間の音量バランスを調節するのに使う。
スピーカーとの接続は、まず楽器本体から専用のケーブルでD1プランシパルへ繋ぐ。そしてプランシパルの裏側からD2、D3、D4へと分岐される。同時にD1と同じ出力に、もう一つ拡張用のスピーカーを繋ぐことも可能である。この接続のためのケーブルは、D1からの出力に関しては[[DINコネクタ]]の一種で2ピンのスピーカーDINメス(フランスでは DIN HP femelle )と呼ばれるもので、かつて欧米ではスピーカーの接続用規格として使われていたが現在はほとんど流通していない
== オンド・マルトノを用いる音楽作品 ==
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これらオーケストラの楽器の音色と混ぜる従来の管弦楽法的な使い方のほか、低音部でのグリッサンドなど、効果音として打楽器のようにオーケストラを補助する音色としても用いられる。
メシアンの曲としては他にも、初期の組曲「[[美し
=== ジョリヴェ「オンド・マルトノ協奏曲」 ===
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* 「[[巴里の空の下セーヌは流れる]]」(1951年、[[ジャン・ヴィエネル]])
* 「[[アラビアのロレンス]]」(1962年、[[モーリス・ジャール]])
* 「[[決死圏SOS宇宙船]]」(1968年、[[バリー・グレイ]]) シルヴェット・アラールが演奏
* 「[[狼は天使の匂い]]」 (1972年、[[フランシス・レイ]])
* 「[[インドへの道]]」(1984年、モーリス・ジャール)
* 「[[ゴーストバスターズ]]」(1984年、[[エルマー・バーンスタイン]])
* 「[[レヴェナント: 蘇えりし者]]」(2015年、[[坂本龍一]]) 大矢素子が演奏
* 「[[G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ]]」(2021年、坂本龍一) [[原田節]]が演奏
また、テレビ番組の音楽としては以下が例として挙げられる。
* NHK[[大河ドラマ]]「[[独眼竜政宗 (NHK大河ドラマ)|独眼竜政宗]]」<ref>{{
* NHK[[大河ドラマ]]「[[八代将軍吉宗]]」
:上記いずれもテーマ音楽作曲は[[池辺晋一郎]]。
* 「[[ウエスタン・マリオネット 魔法のけん銃]]」
* 「[[スーパーカー_(人形劇)|スーパーカー]]」
* 「[[宇宙船XL-5]]」
* 「[[海底大戦争 スティングレイ]]」
* 「[[サンダーバード_(テレビ番組)|サンダーバード]]」
* 「[[キャプテン・スカーレット]]」
* 「[[ジョー90]]」
* 「[[ロンドン指令X]]」
* 「[[謎の円盤UFO]]」
* 「[[スペース1999]]」
:上記いずれもテーマ音楽作曲はバリー・グレイ。
* [[NHK特集]]「[[未来への遺産]]」(テーマ音楽作曲:[[武満徹]]) 但し[[武満徹]]は演奏会用作品ではオンド・マルトノを用いていない。
* [[コドモ警察]](テーマ音楽作曲:[[瀬川英史]])
[[アニメ (日本のアニメーション作品)|アニメ]]、ゲームの例は以下のとおり。▼
▲[[アニメ]]、ゲームの例は以下のとおり。
* 「[[ガサラキ]]」
* 「[[パルムの樹]]」([[原田節]]作曲、「ハラダタカシ」名義)
* 「[[びんちょうタン]]」サウンドトラック([[岩崎琢]]作曲)<ref>{{
* 「[[輪廻のラグランジェ]]」
* 「[[わんおふ -one off-]]」([[原田節]]作曲)
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代表的な演奏家
*
*
*[[トリスタン・ミュライユ]]:作曲家としても有名。
*日本では[[本荘玲子]]、[[原田節]](ハラダタカシ)、[[大井浩明]]、[[長谷綾子]]、[[市橋若菜]]、[[久保智美]]などが知られている。
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このとき日本へ持っていった楽器は、第3世代かもしくは開発途中で公表されていなかった第4世代のいずれかと思われる。日本国内の文献によると、当時の日本の新聞では「音波ピアノ」と紹介されており、何らかの形で鍵盤に似た構造が備え付けられていたと想像できる。
戦後では、[[小澤征爾]]が[[1962年]][[7月4日]]にメシアンのトゥランガリーラ交響曲を日本初演した演奏会(オンド・マルトノは[[本荘玲子]]が担当)が、日本の聴衆にこの楽器の大きな印象を与えた最初の機会の一つである。詳しくは小澤征爾の項を参照。
同じくこの楽器にとって重要レパートリーであるはずのジョリヴェのオンド・マルトノ協奏曲は、それよりずっと遅れて[[1997年]]に[[原田節]]独奏、[[大野和士]]指揮[[東京フィルハーモニー交響楽団]]によって日本初演された。
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=== オンドモ ===
[[日本]]の製作者が4オクターブタイプの開発に成功<ref>[http://ondesmusicales.tumblr.com/image/99272337269 ondesmusicales]</ref>している。詳しくは[https://ondomo.net/jp/ ondomo.net]を参照のこと。
==音楽ソフトウェア==
[[クリプトン・フューチャー・メディア]]から、オンド・マルトノをライブラリ化した「ONDES(オンド)」が[[2011年]]に発売されて
== 参考文献 ==
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* E. Leipp, Maurice Martenot "Les Ondes Martenot" Bulletin du Groupe d'Acoustique Musicale - Université Paris 6 (絶版、ただしパリ第6大学にて閲覧および資料目的のためのコピーが可能)
== 脚注 ==
{{
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
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* [http://www.thomasbloch.net Thomas Bloch's website, a world prominent ondes Martenot player (also glassharmonica and cristal Baschet) - facts, videos, pictures, biography, discography, contact...]
* [http://www.christineott.fr Christine Ott website, ondes Martenot modern composer]
* [
* [https://web.archive.org/web/20030813231515/http://martenot.com/sommaire.php3 Union des Enseignements MARTENOT] モーリス・マルトノの息子で現在アトリエを運営するジャン=ルイ・マルトノによるオンド・マルトノ公式サイト。
* [https://
{{DEFAULTSORT:おんとまるとの}}▼
{{Normdaten}}
▲{{DEFAULTSORT:おんとまるとの}}
[[Category:電子楽器]]
[[Category:鍵盤楽器]]
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