なぜアメリカの経済は回復しているのに出生率は上がらないのか?
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アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した報告から、2017年のアメリカは過去30年間で最も出生率が低い年になったことが明らかになりました。これまで出生率の低下は「女性の社会進出」や「女性に対する教育の機会の増加」「効果的な避妊薬の登場」といった背景で語られていました。しかし、出生率の低さ社会の変容というよりも「政策的・経済的な問題」だとして、ノースイースタン大学社会学博士のAlex Press氏が論じています。
The low birthrate offers yet another sign that millennials are economically screwed - Vox
https://www.vox.com/the-big-idea/2018/5/31/17413356/low-birthrate-millennials-economy
2018年2月にニューヨーク・タイムズが掲載した記事では「子どもを欲しがる女性の数は増加しているが、実際に子どもを持つ女性の数は増えていない」という問題について記されています。女性が「欲しい」と考えている子どもの数は平均すると2.7人なのですが、実際に女性が持つ子どもの数の平均は1.8人であり、1972年から2016年まで行われた調査の中で、このギャップは過去最大のものとなっています。
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アメリカでは特にリーマンショックによる景気後退以降、出生率が下がっています。もちろん、経済的な要素以外にも女性が子どもを産むことに対する動機は存在しますが、多くの社会学者や経済学者が、経済が出生率の動きに関わっていることに同意しています。過去に行われた研究の中には、出生率が経済の指標になると示すものもありました。2017年時点の出生率の低さの原因の1つも経済にあると見られています。
しかし、アメリカのGDPは回復してきており、失業率も減ってきています。数字だけみれば経済の回復にあわせて出生率は上がるはずですが、過去最低記録をたたき出しているという状態が存在します。ここで注意したいのは、経済は必ずしも量的なものだけを意味するわけではないということ。クオリティ・オブ・ライフ(QOL)もまた経済的繁栄の重要なメジャーであり、子どもを欲しがる女性が子どもを持てないという状況は、平均的なアメリカ市民は「回復」を感じていないことを意味しています。
アメリカにおけるクレジットカードの債務額は2018年になって1兆ドルを上回っており、学生債務について言えば6年前に既に1兆ドルを超えていました。一方、クラウドファンディングプラットフォームのKickstarterでは医療費を求めてプロジェクトを立ち上げる人が数多く存在します。労働者の賃金が上がる見込みは少なく、「子どもは1人にしておこう」と考えるのもうなずける状況です。
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加えて、アメリカは有給出産や育児休暇がなく、民間部門にサポートを求めるのも難しい状況にあります。The Guardianによるとアメリカで産休制度がある会社は全体の56%であり、そのうち産休中の給与が全額支給される会社はわずか6%しかないとのこと。
さらに、子どものデイケアにかかる費用は年間9589ドル(約100万円)にのぼり、州立大学の授業料よりも高くつくといわれています。このように、多方向から見ても、経済・政策ともに出産や子育てを踏みとどまらせる環境がアメリカにはあるわけです。
出生率の低下は、人々に対する経済的負担を大きくする可能性があります。高齢化が進めば社会保障を支払う労働者が減り、労働力を失った人を世話する人が少なくなるためです。また出生を増やそうと中絶や避妊が規制されるようになる可能性もあり、女性の選択の自由を増やすどころか減らす状況にもなりかねません。
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出生率は結局のところ政治的・経済的選択が反映されるところであり、出生率を増やすためには「母性が女性の人生にとって何よりも大事」と訴えるのではなく、育児休暇や保育施設の助成、職場における女性に差別をなくすこと、ヘルスケアといった政策の変化が必要だとPressさんは述べました。
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