セクシュアリティ(性のあり方)やジェンダー平等において世界的に進んでいるスウェーデン。セクソロジー(性科学)の研究も盛んで、臨床心理や社会福祉の分野で3年間の修士プログラムを終えた心理カウンセラーやソーシャルワーカー、精神科医や心理学者がセクソロジーを研究し、カップル・カウンセリングやセックス・セラピーを行っている。セクソロジーの学部もない日本とは大きく違い、性を科学的に研究する専門家がおり、セックスに対する心理療法も多様だ。
そんなスウェーデンのテレビや雑誌で活躍するスウェーデン人のセクソロジスト(性科学者)、マーリン・ドレヴスタム氏に、日本で夫婦の約半数が陥っている(※1)「セックスレス」(※2)の問題について聞いてみた。
「セックスレス」という言葉は使わない
ドレヴスタム氏はまず、筆者が使った「セックスレス」という言葉に反応した。スウェーデンの性科学の世界では「セックスレス」という言葉を使わないし、メディアもセックスレスを大きく報じない、と彼女は言う。
これは、「セックスレス」が和製英語だ、ということではない。例えばアメリカのメディアはセックスレスという言葉を近年使っており、「1年間に10回未満のセックス」や「過去半年間に0回のセックス」がセックスレスの定義だとしている。また、ニューヨーク・タイムズによると、アメリカの既婚者の約15%がセックスレスに陥っているという(※3)。セックスレスは日本やアメリカのメディアでは大きなトピックになっているが、なぜスウェーデンの性科学界はセックスレスという言葉を使わないのか。
「それは、セックスの定義は人それぞれだとスウェーデンのセクソロジストは考えているからです。ある人にとっては髪をなでたり、肩を抱き寄せたりするのも性的コミュニケーションなのです。セックスをひとつの形に限定して、回数で捉えてセックスレスだからよくないとする社会は、セックスを“行為”だと捉えて、“関係”を育むものだと捉えていません。
スウェーデンのセクソロジーではセックスを“親密な関係性を育むもの”と考えています。そもそも、カップルがハッピーだったらセックスの回数が少なくてもセックスレスではないのです」(ドレヴスタム氏、以下同)
※2…日本性科学会よれば、セックスレスの定義は、特殊な事情がないのにもかかわらず、性交やセクシュアル・コンタクトが1カ月以上なく、その後も長期的に続くことが予想される状況を指す。
※3…When the Cause of a Sexless Relationship Is - Surprise! - the Man - The New York Times