"女性犯罪論の古典"も説いた「月経時の虚言」
大正時代に出版された寺田精一の『婦人と犯罪』(1916年)も、女性は月経時に「空想あるいは不確実なる考え、あるいはまた虚言の傾向を生ずる」と説いている。
同書は、日本における「女性犯罪論の古典」と呼ばれており、その内容はのちの女性犯罪論に継承されていくのだが、時代背景を考慮すると「犯罪論」というよりはむしろ「女性論」であるということがわかる。
当時、平塚雷鳥をはじめとする「新しい女」たちが登場し、注目を浴びたことで、女性に教育の機会を与えるべきか否か、将来参政権を与えるべきか否かという「婦人問題」論争が盛んに行われていた。
この論争に対し「犯罪」という視点から、教育はあくまで良妻賢母教育に限り、性別役割分業を是とする多数派の意見を支持する形で出版されたのが、『婦人と犯罪』だった。
寺田は、ロンブローゾの著書やドイツの刑法学者ハンス・グロスの著書を邦訳しているが、グロスも女性は月経時に嘘をついたり罪を犯したりしやすいと説き、月経時の「審問」について次のようなアドバイスを行っている。
婦人の犯罪者または証人の審問は、その行為の時または経験せる時より四週間目に行うべからず。何となれば、もしその行為または経験が、あたかも月経時にありしとせば、審問のときもまた月経時に相当するをもって、正しき陳述を得ることは能わざればなり。(『犯罪心理学』)
4週間というのは女性の平均的な月経周期である。月経による犯行であれば、その4週間後もまた月経時にあたるため、審問を行っても正しい証言は得られないというわけだ。