「笑い」でかわし、「ルール」で身を守る
――言い方は難しいですが、松本さんの発言は、お笑いの「ルール」で回収できなかったのでしょうか。ブログでたかまつさんは「ルール」の話もされていました。
たかまつ:私が言いたかったは、その「お笑い的なルール」じゃないんですよね。それは「カルチャー」に近い。
私がブログで書いたルールは、憲法や就業規則、労働契約のような「明文化されたもの」です。一時的に回避する手段としての笑いは有用ですが、自分たちを守るためにはルールを作っていかないといけないと思うんです。
それは、政治の世界の「憲法」と同じです。憲法は、権力者を縛るためにある。それがないと、政治家の人はいくら「いい人」だとしても、憲法がないと暴走することもできる。反対に、私達の生活は法律というもので縛られている。だからこそルールに対して無頓着であってはいけないし、ルールを知っていれば、自分自身を守ることもできる。
だから、セクハラやパワハラにあった時に必要なのは、一時的にかわす方法としての「笑い」と、最終的に身を守る「ルール」の2つ。「ルールが足りない」と女性陣が感じるなら、どういう制度があればいいのかをみんなで考えなければいけない。
最近では男性の側も、セクハラの疑いをかけられたくないから、会社の飲み会に行きたくない人が多いと聞きます。なんだか、すごく悲しい社会ですよね。
――お互いに不幸になっていると。
たかまつ:たぶん、本当にセクハラをしている人は、その行為が問題だと気づいていない。対して、普通の感覚をもっている人は、セクハラを疑われるから飲みに行きたくない。みんながみんな不幸ですよね(苦笑)。
ブスって言われていい人は、まわりからブスいじりを否定されると、やりづらい。「誰が得するんだよ、この状況」って思っちゃいますよね。
――ただ、ルールを明文化すると、ギスギスするのではないかという懸念があります。もっとマナーレベル、現場の努力で防げるんじゃないか、という意見も出てくると思います。
たかまつ:それではルールが守られないと思います。たぶん、働き方で考えるとわかりやすいかと。たとえば、いま、教員の働き方が問題になっています。過重な労働で、しかも部活の顧問をしていても、時間外労働の手当がないんです。そこでタイムカードを導入する話が出ても、「教員としての働き方はそういうものじゃない」という現場の声もある。働き方という意味で、すごく遅れています。
民間企業でも、数年前にそういう動きがあったと思います。「タイムカードを導入しても嘘をついて押せと命じられれば意味がない」と、ルールによって生身の信頼関係がなくなったり、現場のフレキシブルさがなくなるような話になりました。
でも、明文化されていたら管理者の責任を問うことができる。現在の「働き方改革関連法」だと、月に45時間以内と残業時間の制限がと決まっています。仮に60時間働いたとしたら、会社を訴えたら勝てるわけです。
――ただ、実際にそういうことがあっても、なかなか訴えるところまでいくのは難しいですよね。
たかまつ:訴えなかったとしても、「アレ、そういえば法律で45時間しか残業ダメって聞いたんですけど、大丈夫ですかね?」と言ったら経営側はめちゃくちゃビビると思うんですよ。私がもし従業員の人からそう言われたら、「やばいやばい、ちゃんと管理しなきゃ」となる。そういう効力は、やはりあると思うんです。
自分の常識や感覚が違うんじゃないかと迷ったとき、そういった外部の指標があるとすごく楽だと思います。そういう意味で、ルールを明文化することは自分を守るためにすごく大事。もっと学校の授業で自分の生活に則したルールを学べる場があればいいと思うんです。なかでも労働の教育は本当にやったほうがいい。最低賃金の話とか、ブラックバイトで働いたらどうすればいいか、とか。
事務所を変えただけで「問題のある人」に
――話を戻すようですが、芸能界も同じ問題を抱えていますよね。
たかまつ:そうですね。まず組合が機能していない。「タレント組合」がないですからね。
――たかまつさんの目から見て、今までお話されていたような状況は変えていけそうですか?
たかまつ:正直、肌感覚としては難しいと、身を投じていて思います。何でも海外と比べようとは思いませんが、アメリカだと今の日本の状況はありえないですよね。マネジメント会社を自分で選ぶのも当たり前だし、マネージャーも弁護士も自分で決める。マネージャーを変えたからってそのタレントがわがままだとは誰も思わない。むしろ自己プロデュースがしっかりしていると思われる。
でも日本だと、タレントが芸能事務所を変えれば「問題のある人なのか」となる。それってすごくおかしいことです。
その感覚の遅れは、芸能界だけではありません。世界の感覚を受け入れられない面がすごく多いと思います。移民や難民、外国人労働者の受け入れについても、法律や現場の対応は間に合っているでしょうか。
日本は「外圧」に弱いと思うんですけど、芸能界など、外圧が機能しない分野は特に遅れていますよね。