オックスブリッジで鍛えられた、英国社会で役立つ「blagging(ごまかす)」力
オックスブリッジ型にはまらない同級生
私はどうにか合格し、どういう縁か、オックスフォードの中でも「エリート」のイメージが強いクライストチャーチに所属することになったが、確かにそこには名門校出身者、そしてイギリス人が多かった。入学写真では、背の高い自信あふれるイギリス人男子が堂々と最前列に座り、その後ろに私含む数人のアジア系の女子と白人の女子がちょこんと立ち、それでも前列に座る男子とあまり高さが違わなかった。学生寮とは思えない、肖像画が飾られた重厚な部屋のパーティーにおそるおそる顔を出した後、ハリーポッターのロケにも使われた建物を小走りに自分の部屋に戻ってベッドにうずくまったのを覚えている。朝起きると、窓の外では牛がカレッジの牧草地で草をはみ、観光客の団体のカメラレンズがこちらを向いていた。カレッジの大聖堂の鐘が響き鳴る中、部屋着の上にコートを羽織って教授の部屋へと走り、自分と同い年とは思えない自信満々の同級生の熱弁を聞きながら(今になって「blagging」だったと分かるが)、必死にパニックを抑えていた。
このようなカレッジの雰囲気や個性の強い人の存在にあまり馴染めなかった私は、 のち親友となる人たちと仲良くなるのに入学から約1年かかった。その中で特に仲良くなった2人は偶然なのか、共にクライストチャーチやオックスフォードのイメージとは正反対の、訛りの強い北イングランド出身、公立出身だった。性格は温和で、服装も態度も素朴、 卒業後は金融か弁護士というような先入観を持たず、就職に困っても親に頼れるという怠慢な様子もなかった。
そんな2人に今でも驚かされるのは、頭の良さと自由な行動ぶりだ。1人は、同じ英文学専攻だったが私の何倍も勉強熱心、彼女だけは「blagging」することなく、本当に読んだこと、知っていること、考えたことだけを語り、卒業試験では何の対策もせず、まさに実力と努力でファースト(トップの成績)を取った。しかし、だからといって大学院進学だけに進路を限らず、インドで大好きなヨガのインストラクターの資格を取ったり、アジアで英語を教えたりしている。一方もう1人、学寮で部屋が私の上だった政治経済専攻の友人とは、ブラック・コーヒーを片手に、死刑制度のような重い話からくだらない冗談まで、毎晩延々と盛り上がった思い出がある。彼も卒業後、政治専門誌の編集者を務めたり、神経科学を勉強した後、現在は独学で映像作りを覚え、その関係の仕事をしている。
オックスフォードで一緒だった頃は、彼らも私も、食堂でフォーマルな食事するのが億劫だったため、 「ホールで食べない人」が食事代を請求されたくなければ記入しないといけない紙に、私が毎週代表して皆の名前を書いていた。カレッジの行事にはろくに参加せず、自分たちの趣味と興味だけを追う独特な世界を切り開いていった。結局、彼らは10年後の今でも社会に決められた枠にははまらず、おもしろい人生を送っている。オックスブリッジは、そんなオックスブリッジ生の典型に当てはまらない人にも居場所をつくってくれる。また、イギリス社会もこのような変わり者を評価してくれる。
ちなみに、この2人は、私のようにオックスフォード時代が懐かしき良き時代だったとは特に思っていない。辛い経験、苦い経験のほうが多かったのかもしれない。オックスブリッジは、必ずしも全ての学生にとって楽しいわけでも、ためになるものでもない。唯一言えることは、社会で憧れられながらも敬遠されているオックスブリッジ、受験時も入学後も大変なオックスブリッジに行きたいと思って、自分の力でたどり着いた人は、皆根性がある。そして卒業後は、それぞれオックスブリッジでの経験を武器に、自分の選んだ道で活躍している。それは日本から留学して来られる方々も同じだと思う。
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オックスブリッジ100人委員会より