欧州は当時、冷戦が始まっていたロシアと対峙し、かつ自分たちの潜在的脅威になりかねないドイツを抑えこむには、米国の関与が不可欠と考えた。欧州だけでは不十分だったのだ。
いま日本は「独立自尊路線」あるいは「現状維持路線」を選ぶよりは、これまでの日米同盟を強化して「米国をつなぎとめる」路線を選択したほうが、安全かつ安上がりだ。それが4番目の対米強化路線である。
欧州はNATOだけでは不十分と考えて、私が駐在していた90年代中ごろから欧州独自の共同軍創設に動いていた。いま欧州共同軍は実際に形を整えている。ここでも基本にあるのは、もちろん「集団的自衛権」である。
欧州の中にも欧州共同の防衛機構に加わらず、独立自尊路線を選んでいる国がある。スイスだ。スイスがどうやって国を守ろうとしているのかといえば、独自の軍事力強化と徴兵制、さらには「いざとなれば自ら国を焼き尽くして敵に戦利品を渡さない焦土作戦も辞さず」というド根性である。
日本はといえば、1945年に1億玉砕を昭和天皇のご裁断で回避して命拾いした。そして多くの国民がそれを天皇に感謝した。そんな日本がスイスのような徹底した独立自尊路線をとれるのか。危なっかしいだけではない。そんな覚悟は日本にないと思う。
マスコミが伝えない「安保防衛問題」としてのTPP
中国が世界一になる近い将来を見通せば、アジア太平洋でも欧州のように「共同防衛機構を作ろう」という話になっても、まったくおかしくない。独自で中国の脅威に対抗するより「みんなで対抗したほうが安全で安上がり」だからだ。
それは国連創設の原理でもある。1対1で悪漢に立ち向かえば、戦争は長引き、戦火がよそに飛び火する可能性もある。カネもかかる。だから国連は「悪漢退治はみんなで」という大原則を憲章第1条で作った。