2024.12.18
ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」
元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。
※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。
※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。
圧力を受けた音楽家
私が学生時代に読んで感銘を受けた本の一つに、フランスの作家ロマン・ロラン(一八六六〜一九四四)が書いた長編小説『ジャン・クリストフ』があります。
この小説は、ジャン・クリストフという架空の音楽家が、人生の苦悩と喜びを経験しながら、魂の成長を遂げていく過程を、八年かけて描いた作品です。作者ロランは、ベートーヴェン、ミケランジェロ、トルストイの各評伝を遺したことでも知られており、主人公クリストフの人物像は、まさにこの三人の偉人の生き方や思想がモチーフになっているのです。
正義感が強くて自分の気持ちに忠実なクリストフは、音楽界における党派の横行や、音楽家と批評家の癒着などを見ると許すことができず、相手が巨匠音楽家であろうが公然と批判します。政治に対しても同じで、間違ったことや嘘は絶対に許さない。それは私の心のなかに何十年と刻まれています。
そうした生き方ゆえに、クリストフはさまざまな圧力を受けますが、それに屈することなく立ち向かい、音楽家として成功をおさめます。私はこの小説を読んで、「自分はどう生きていきたいのか」を意識するようになりました。
小説の最後にクリストフは亡くなりますが、ロランはその第一〇巻の序文に力強い言葉を残しています。
「今日の人々よ、若き人々よ、こんどは汝らの番である! われわれの身体を踏み台となして、前方へ進めよ。われわれよりも、さらに偉大でさらに幸福であれ」(『ジャン・クリストフ4』豊島与志雄訳、岩波文庫)