「私の努力が足りませんでした。申し訳ありません」
ある毎月の定例販売会議での担当者Cさんの言葉だ。Cさんは先月の予算が達成率87%で未達成だった。しかも予算だけではなく、先月実施した「休眠顧客開拓施策」も進捗度50%と大幅に遅れていた。そこでCさんは、自分の発表順になって謝罪したのだ。
このような光景は販売会議のみならず、あらゆる会議で見られるごく自然なものだろう。しかしながらこれは、性善説の視点に立った光景だ。「努力不足を謝罪すると、次は失敗しない。少なくとも全力で創意工夫をする」という前提に立っている。
性弱説の視点に立つキーエンスではこのようなアプローチはしない。では、どこがどのように違うのか。詳しく見ていこう。
予算未達を謝罪したら、次は同じ失敗をしないのか
まずは状況を整理しよう。予算達成率87%とは、年度開始時に立てた予算に対して、先月のCさんの売り上げ実績が届かなかったという意味になる。販売担当者にとって、立てた予算の達成は会社に対しての責任であり、最重要のミッションだ。
では、なぜ未達成だったのか。それにはいくつかの要因がある。1つは、獲得できると予定していた大口案件が、客先の決裁遅れによって獲得できなかったことによる。もう1つは、比較的大きな案件で、購入してくれる見込みだったX社が購入してくれなかったことだ。この2つが大きな要因となっている。どちらも客先都合の要因とはいえ、一般的な販売会議では、言い訳できない内容である。従ってCさんは、謝罪をした。
しかしながら、次の点についてよくよく考えないといけない。それは、「謝罪したら、次は同じ失敗をしないのか」という点だ。筆者は多くの企業で販売系の会議を見てきた。その中には、謝罪だけで済んでいる会議が珍しくない。
そのたびに、「謝罪だけでは次も同じ失敗をする可能性がある」とその企業の経営者にアドバイスをしてきた。しかしほとんどの経営者は「謝罪をするならば、本人も反省しているだろうから、次は同じ失敗はしないだろう」という安易な性善説に基づいて、具体的な対策をしないままだった。これは、コンサルタントとしての私の説得力不足でもあるのだが、このような考え方の経営者に翻意してもらうのは難しい。
では、再発防止のためにはどのような視点で予算未達を見るべきなのだろうか。まず考えるべきは、「なぜ獲得できなかったのか」という原因分析だ。今回の場合、1つ目が決裁遅れで、2つ目は購入自体が取りやめになった。2つとも客先要因ではあるが、決裁遅れの兆候をつかむなり、購入意思の確認精度を上げるなり、やれることはあったはずだ。兆候を早めにつかめば、追加のアプローチをするなり、別の顧客への営業活動を増やすなりといった選択肢を採る時間が得られる。
例えば、前者の決裁遅れについては、客先の決裁システムについて相手担当者に少しでも聞いていれば、精度が向上していた可能性がある。後者については、そもそも、「自社製品を購入してもらうと顧客にどれだけメリットがあるのか」という、客先にとっての費用対効果をしっかりと捉えていれば、見込み違いを回避できた可能性があるのだ。
つまり、「決裁システム」「費用対効果」といった、製品販売を左右するメカニズムの解明ができていなかった点が真の要因だ。そこを置き去りにしたまま、「謝罪すれば本人も反省するだろう」というアプローチをすれば、次も失敗する可能性が多分にある。
つまり、販売担当者Cさんに対しては、「製品販売をメカニズムで捉えるスキルが不足しているため、それを指摘・改善しないと次もまた失敗するかもしれない」という性弱説の視点によるアプローチが必要だった。
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