誤差1%と高精度の需要予測を可能にする森岡毅氏の数学マーケティング。今や、刀の強さをつくる武器になっているが、森岡氏は容易にそこにたどりつけたわけでない。追い込まれた末のある決断がその後の人生を大きく変えた。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
今でこそ、森岡にとって最大の武器となった数学マーケティング。だが、最初から順調にそこにたどり着けたわけではない。遡ること約30年前の、ある挫折から物語は始まる。神戸大学経営学部を卒業後、新卒入社したプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の日本法人で2年目に入っていた森岡は、壁にぶち当たっていた。
「これ、かっこいいね」
「このデザインの方がすてきですね」
神戸市にあるP&G日本法人のオフィスで、同社のマーケターらがシャンプーのボトルのパッケージについて話し合っていた。どんなデザインにすれば消費者が手に取ってくれるか。社員がそうした議論をするのは、消費財を扱う企業なら日常の風景だ。だが、当時の森岡にはそうした感覚がさっぱり分からなかったのだ。
森岡が学生時代に得意とした科目は数学。一方で不得意だったのは国語だ。理由は、理数系科目に比べると「解がはっきりしない」印象があったから。客観性が高く、誰が見ても分かりやすい明確な数字が解として出る数学に比べると、国語の解は問題作成者の主観さえ入っているように思えた。
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