「講義で学生たちに、何度も、相関と因果は別と説明しても、取り違えた解釈をされてしまう。学問だけでなく日常も、大丈夫かと心配になってくる」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(今井むつみ著、日経BP)。同書から抜粋して、多くの人が持っていて、コミュニケーションの妨げになりがちな「認知のゆがみ」や「認知バイアス」を紹介していきます。今回は「相関を因果と思い込む思考バイアス」と「すらすら話される・わかりやすいと信じてしまう認知バイアス」について。

前回「聞いた話と自分の知識は別物 生きた知識が論理的思考のカギ」から読む

「親が本を買う→子どもの学力が伸びる」は本当か?

 AとBという2つの事実が順番に起こったときに、私たちはつい、その2つに何か関係性を見いだそうとする傾向にあります。たまたま赤いものを身につけて行った日にラッキーなことが起こったら、「赤を身につけるといいことがある」などと考えてしまうのはその典型です。
 これは相関を因果と思い込む思考バイアスで、このように本当は因果関係にはないもの(疑似相関)を、因果関係のように扱ってしまうケースは実によくあることなのです。

 因果関係とは、AはBという結果が起こる直接の原因であるときにいいます。疑似相関は、他の要因(C)が介在し、CがAとBの双方に相関関係があることから、AがBを直接引き起こすわけではないのに、AとBの間に直接の因果関係があるように見えてしまうことです。

 例えば子どもの学力を測る調査では、「家に本が何冊あるか」という指標が学力と相関が高いことがわかっています。それは過去の様々な研究でも報告されている、非常に頑健な傾向です。私たちが行った、子どもの学力のつまずきを明らかにするための調査でも、家庭の蔵書数は学力との相関が高いことが示されました。

 これを因果関係と捉えると、
「親が本を買う→子どもの学力が伸びる」
 と解釈することになります。その解釈でいけば、「本は嫌いだけどお金はあるから、家に図書館をつくりました」という家庭で子どもを育てた場合は、子どもは賢くなるでしょうか? なりませんよね。

 そうではなく、親の「本を買う」という行動の裏に、別の要因があるわけです。それは学歴や収入、知的好奇心などです。それらの要素が実は、子どもの学力に影響している。蔵書数と子どもの学力はある程度連動する、つまり相関しますが、その関係は間接的であり、直接の因果関係にはないわけです。
 相関関係に比べて、本当の因果関係は世の中にそう簡単には見つかるものではありません。

ストーリーがバイアスを助長する

 一方で、様々なことがあたかも因果関係のように語られ、ストーリーがつけられています。
「結果が出ないのは、努力が足りないからだ(努力と結果が因果関係だと思い込む)」
「A社から契約を打ち切られたのは、担当者がサボっているからだ」
「この企画書が通らなかったのは、◯◯部長の機嫌が悪かったからだ」……。
 世間でよくあるこのような「原因」とされる推察の多くは本当の因果関係とは確定しにくい、疑似相関であることが多いのです。

 ある2つの事柄の間に相関があったときに、簡単に2つの間に因果関係があると決めつけず、疑似相関ではないかと疑ってみることが大事です。
 本を買えば、ピアノを習えば、リビングで勉強すれば、親の年収が高ければ、本当に子どもの学力は上がるのか。そこに本物の因果関係があるのか。疑似相関に過ぎないのではないか。因果関係だと決める前に一度、考えてみてください。

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