知らない街の外れに真夜中に到着し、人通りのない暗い道を少し奥に入ると何軒かの家が並んでいた。この家のどれかが今夜僕達の泊まる家だ。
まだそれ程名前が轟いているわけでもないので、ここでAirbnbの説明をしておきたいと思う。
Airbnbというのはウェブサービスの名前で、説明的にもっとちゃんと書くと" Air B and B"となる。"B and B"というのは"Bed and Breakfast"のことで、民宿みたいな意味合いだ。Airbnbのサイト上では、職業的に宿を運営している人でなく、普通の人が「余っている部屋」とか「出張中で誰もいない家」とかを貸し出すことができる。サービスは日本を含む多くの国に普及しているので、大抵どこの国へ行くにしてもこのサービスは使える。
Airbnbを使う理由は人それぞれで、安い宿を探している人もいれば、ホストとのふれあいを求めている人も、単にホテルには飽きたという人もいると思う。
僕達が今回Airbnbを利用したのは、このシステムに多少興味があったというのと、あとは適度に安い宿泊先が見つかったからだ。
どうしてかは分からないけれど、ポートランドはホテルが高い。僕は旅行中にわざわざ知らない宿主との触れ合いを求めていないので、サラッとホテルに泊まり、プライバシーと快適さをビジネスライクにお金で手に入れたかった。けれどポートランドには、ちょうどいい値段のホテルがあまりない。というか値段とクオリティが釣り合っていないようなところが多い。
後にソルティという、高校から大学院までカナダやアメリカで過ごしている日本人の女の子が登場する。彼女は今テキサスに住んでいて、当初の予定では僕達がテキサスまで彼女を訪ねる予定だったけれど、西海岸旅行の日程にテキサスを組み込むとかなり無理のあるスケジュールになるのでやめにして、代わりに彼女がポートランドまで遊びに来てくれた。ソルティは僕達より一日早くポートランドに来ていて、Red Lionというホテルに泊まっていて、「あのホテルで一泊百何十ドルってありえない」と文句を言っていた。
ケリーの家はきれいで快適そうだったし、値段も手頃だったので2泊の予約。彼女はこの家に住んでいるのだが、僕達が到着する時には多分いないだろうということでドアを開ける暗証番号をメールで教えてくれた。
「あっ、ここだ」
暗い中、目を凝らしてクミコがケリーの家を見つけた。iPhoneを引っ張り出してメールに書かれた暗証番号と鍵の開け方をチェックする。よその国の知らない街の知らない人の家の前で、真夜中に玄関の開け方を調べるのは妙な気分だった。さらにドアが開いて中に足を踏み入れるともっと奇妙な気分がする。僕達は今夜、この誰も迎えてくれない他人の家に泊まるのだ。
「電気どこかな?」
「ちょっと待って」
僕はiPhoneのライトを付けて玄関ドアの周囲を照らし、スイッチを見つけて電気を点けた。灯りの点いたその空間は、玄関を入ってすぐに設けられた20畳程度の部屋で、大きなテレビとソファ、本棚、猫が登ったりして遊ぶ木のようなものが置いてあった。
「それで私達の部屋はどれなんだろう?」
少し奥に進むとキッチンとダイニングがあって、電気を点けると冷蔵庫のホワイトボードに書き置きがあった。
「冷蔵庫は自由に使ってね。テーブルにスナックとフルーツも用意してあるから自由に食べて!」
それからケリー本人だと思われる人物の写真も冷蔵庫に貼られていた。どんな人なのだろう。ダイニングを抜けるとバスルームで、そこへ行く途中に部屋が1つあるけれどドアを勝手に開けるのも憚られる。二階ってことはなさそうだしなと、もう一度玄関の部屋に戻ると何の事はない入って左にドアがあって、そこに張り紙がしてあった。
『 ようこそ!
この部屋を自由に使ってね!
くつろいで下さい!
Wi-Fiのパスワードはxxxxxxxxxxxxxxx
家には猫が二匹いて、1匹は警戒心が強いけれど、もう1匹は好奇心旺盛だからお邪魔するかもしれません。人懐っこいから悪さはしないわ 』
僕達はドアを開いて中へ入り、電気を点けた。大きなベッドの上には二人分のバスタオルとフェイスタオル、それからペットボトルの水とエナジーバーまで用意してあった。壁には日本の侍みたいなのが描かれている古い絵や中国の書、置物などが飾られていて、東洋が好きなのが伺える。
荷物を置いて一息付き、ケリーに「着いた」と一応メールを送っておく。あれ?っと思って視線を動かすと、きれいな毛並みの三毛猫が開けたままのドアからこちらを見ていた。
まだそれ程名前が轟いているわけでもないので、ここでAirbnbの説明をしておきたいと思う。
Airbnbというのはウェブサービスの名前で、説明的にもっとちゃんと書くと" Air B and B"となる。"B and B"というのは"Bed and Breakfast"のことで、民宿みたいな意味合いだ。Airbnbのサイト上では、職業的に宿を運営している人でなく、普通の人が「余っている部屋」とか「出張中で誰もいない家」とかを貸し出すことができる。サービスは日本を含む多くの国に普及しているので、大抵どこの国へ行くにしてもこのサービスは使える。
Airbnbを使う理由は人それぞれで、安い宿を探している人もいれば、ホストとのふれあいを求めている人も、単にホテルには飽きたという人もいると思う。
僕達が今回Airbnbを利用したのは、このシステムに多少興味があったというのと、あとは適度に安い宿泊先が見つかったからだ。
どうしてかは分からないけれど、ポートランドはホテルが高い。僕は旅行中にわざわざ知らない宿主との触れ合いを求めていないので、サラッとホテルに泊まり、プライバシーと快適さをビジネスライクにお金で手に入れたかった。けれどポートランドには、ちょうどいい値段のホテルがあまりない。というか値段とクオリティが釣り合っていないようなところが多い。
後にソルティという、高校から大学院までカナダやアメリカで過ごしている日本人の女の子が登場する。彼女は今テキサスに住んでいて、当初の予定では僕達がテキサスまで彼女を訪ねる予定だったけれど、西海岸旅行の日程にテキサスを組み込むとかなり無理のあるスケジュールになるのでやめにして、代わりに彼女がポートランドまで遊びに来てくれた。ソルティは僕達より一日早くポートランドに来ていて、Red Lionというホテルに泊まっていて、「あのホテルで一泊百何十ドルってありえない」と文句を言っていた。
ケリーの家はきれいで快適そうだったし、値段も手頃だったので2泊の予約。彼女はこの家に住んでいるのだが、僕達が到着する時には多分いないだろうということでドアを開ける暗証番号をメールで教えてくれた。
「あっ、ここだ」
暗い中、目を凝らしてクミコがケリーの家を見つけた。iPhoneを引っ張り出してメールに書かれた暗証番号と鍵の開け方をチェックする。よその国の知らない街の知らない人の家の前で、真夜中に玄関の開け方を調べるのは妙な気分だった。さらにドアが開いて中に足を踏み入れるともっと奇妙な気分がする。僕達は今夜、この誰も迎えてくれない他人の家に泊まるのだ。
「電気どこかな?」
「ちょっと待って」
僕はiPhoneのライトを付けて玄関ドアの周囲を照らし、スイッチを見つけて電気を点けた。灯りの点いたその空間は、玄関を入ってすぐに設けられた20畳程度の部屋で、大きなテレビとソファ、本棚、猫が登ったりして遊ぶ木のようなものが置いてあった。
「それで私達の部屋はどれなんだろう?」
少し奥に進むとキッチンとダイニングがあって、電気を点けると冷蔵庫のホワイトボードに書き置きがあった。
「冷蔵庫は自由に使ってね。テーブルにスナックとフルーツも用意してあるから自由に食べて!」
それからケリー本人だと思われる人物の写真も冷蔵庫に貼られていた。どんな人なのだろう。ダイニングを抜けるとバスルームで、そこへ行く途中に部屋が1つあるけれどドアを勝手に開けるのも憚られる。二階ってことはなさそうだしなと、もう一度玄関の部屋に戻ると何の事はない入って左にドアがあって、そこに張り紙がしてあった。
『 ようこそ!
この部屋を自由に使ってね!
くつろいで下さい!
Wi-Fiのパスワードはxxxxxxxxxxxxxxx
家には猫が二匹いて、1匹は警戒心が強いけれど、もう1匹は好奇心旺盛だからお邪魔するかもしれません。人懐っこいから悪さはしないわ 』
僕達はドアを開いて中へ入り、電気を点けた。大きなベッドの上には二人分のバスタオルとフェイスタオル、それからペットボトルの水とエナジーバーまで用意してあった。壁には日本の侍みたいなのが描かれている古い絵や中国の書、置物などが飾られていて、東洋が好きなのが伺える。
荷物を置いて一息付き、ケリーに「着いた」と一応メールを送っておく。あれ?っと思って視線を動かすと、きれいな毛並みの三毛猫が開けたままのドアからこちらを見ていた。
かわいい隠れ家 | |
二見書房 |