photo by Sippanont Samchai その部屋に入った時、私を取り囲んだのは、おびただしい時計であった。 明治時代にも遡れるかという振り子の見える掛け時計、国産なのか、ヨーロッパの生まれなのかもわからないアールヌーボー調の木製の置き時計、昭和後期のモダンなデザインのプラスチックの置き時計、そして、あちこちに置かれた腕時計。 その時計の多くは10時9分、そして秒針があるものは36秒を指していた。 よく見ると、それ以外の時刻を指しているものの多くは、4時15分付近。つまり、私のつけているセイコーの腕時計と同じ、現在の時刻であった。それらの時計は、動いているのである。 「私にはわからないけど、これだけ古い時計があれば、価値のあるものもあるでしょう」 依頼人の山崎玲子がそう言った。 この部屋は、依頼人の話のとおりであれば、最近亡くなった彼女の父がひとりで住んでいた部屋である。 郊外