けものは居てものけものは居ない――だが、「けもの」とは「のけもの」である。 ワーウルフ、すなわち人狼の伝説は、ネウロイ人――かのイキリ軍事オタク御用達のアニメにおいて、それが敵対者として刻印づけられた名前であるのは示唆的であろう――に関する記述として、既にヘロドトスの時代から知られていた。一方、中世において人狼は具体的な人間の形象を取る。すなわち、彼らは非人間つまり教会や共同体の裁判において追放された「のけもの」たちのことなのだ。 近代国家は暴力を独占するが、中世の国家はそうではない。自力救済が当たり前だった時代で、共同体は罪ある者とされた人間に対するいっさいの保護を停止し、排除する。すなわち「縁を切る」。排除された人間に対しては、生命を奪うことを含め、何をしてもよいのである。何となれば、「のけもの」は人間ではなく、「けもの」なのだから。 共同体におけるあらゆる権利を剥奪され、「のけもの」