篠山 ぼたん鍋の故郷 城下町を抱く丹波の山並みは乳色の冬霧に包まれていた。 兵庫県篠山市。盆地の外れに車を止め、3人の猟師と里山に踏み入った。ぬれた落ち葉が埋める斜面を、はうようによじ登る。裸木が寒風に揺れていた。 「おるか」 そばに立つ猟師が聞いた。 「おる」 先を登る猟師が答える。 見上げた山腹。ちらつく雪の中にイノシシが立っていた。 「メンタや」。メスだ。 「14貫」。52・5キロ。猟師たちの目算は内臓抜きの重さだ。 息を荒らげた獣がいきなり飛びかかってきた。が、すぐつんのめって転げ回る。左前脚を締めつけた直径4ミリのワイヤが、山肌の木の根に結ばれていた。 「猪(しし)は怖いで。わなのワイヤもバチンと切られる。命をいただくには、私らも命かけな」 猟師たちが手首の太さほどの立ち木を身の丈に切り出した。両手で頭上に構え、じわりと近づく。雪は、やんでいた。ふと獣の動きが止まる。その瞬間、生