ユダヤ人国家と自らを規定する中東の軍事大国、イスラエルを支える思想を根底から否定する本『ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか』(武田ランダムハウスジャパン・3990円)が、欧米でベストセラーとなっている。著者はイスラエル・テルアビブ大学で歴史学を教えるシュロモー・サンド教授(64)。パレスチナ紛争の中、「ユダヤ人国家」というあり方から非ユダヤ人に対して開かれた「イスラエル人」への転換を求めるサンド教授に、民族とナショナリズムについて聞いた。(磨井慎吾) サンド教授が批判するのは、1948年のイスラエル建国の原動力となったシオニズム(“エルサレムのシオンの丘に帰る”という祖国建設運動)だ。19世紀末に欧州諸国の排外主義的ナショナリズムに刺激されて発生したこの思想は、旧約聖書を根拠として「神が与えた約束の地カナン(パレスチナ)」をすべてのユダヤ人が帰るべき場所と定め、いまもイスラエル