7月も末のある日、英国海外秘密情報部員ジェームズ・ボンド、通称007号は、上司のMに呼び出され、彼の部屋で20カラットのダイヤモンドを見せられた。慣れないしぐさで右眼にルーペを押し込んだボンドは、言われるままに、テーブルの上の見事な細工の石をとりあげ、卓上ライトの光にかざした。七色の眩い光が眼を射た。 「いい石だろう?」とM。「素晴らしい。たいへんな値打ちなんでしょうね。」とボンド。 「何、」Mはそっけなく言う。「細工に2,3ポンドかかっただけさ。ただの水晶だ。」 「次はこれだ」Mはまたも20カラットほどの石をボンドに示す。石の中心に青白い炎のような輝きがあり、反射屈折した光が湧き上がって目に突き刺さるようだ。今度はほんもののダイヤモンドだった。さっきの石とは比べ物にならない。眺めながら、ボンドは、今はじめて何世紀にも渡ってダイヤモンドが人類の情熱を掻き立ててきたことが納得できた。この数分