忘れないように10年前のあの日ことを書いておこうと思う。 10年前、自分は都内の大学病院で乳腺外科の常勤医として働いていた。 あの日、地震が起きた時、手術室で乳癌の手術をしている最中だった。 術者は自分、前立ちは年の近い先輩、和気藹々と二人でしているいつもの手術だった。 特にトラブルもなく腫瘍の部分が大方取れたころ、地震が起きたと記憶している。 最初はブルブルと足元が震えるおかしな感覚だった。長く続くその振動に「なんだ?」と思った次の瞬間、どん、と手術室が揺れた。 地震だ!と思ったがあまりの大きさにびびった。創部が大開きのままの患者さんが手術台から落ちないように「支えないとまずい」と思ったが、それ以前に手術台にしがみついていないと自分が立っていられなかった。結果、患者さんに覆い被さるように二人で手術台にしがみついて揺れがおさまるのをひたすら待つ形になった。 患者さんの頭側では麻酔機を看護師
