ギリシャの三大悲劇詩人の1人、エウリピデスの『トロイアの女』で、絶世の美女へレネはこう語る。「美しさを捨て、醜い姿になりさえすれば。彫像の色を拭い去るように!」。へレネはトロイア戦争の悲劇の原因となった自らを責め、自分がトロイアの王子、パリスに寵愛される対象でさえなければ、と考えたのだ。 この有名な戯曲のセリフは広く知られている。だが、古代ギリシャやローマを思い起こす時、色彩が浮かんでこないのはなぜだろうか? この2つの文明の彫刻は白いものだという一種の神話は、人種と西洋的美学に関する思い込みからくるものだ。地中海から北アフリカに広がる地域に生きたギリシャ人やローマ人は、肌の色の違いを認識してはいたが、現代の西欧社会のように肌の色で世界を分類することはなかった。色彩は、むしろ健康や知性、誠実さや品位という詩的な連想をもたらすもので、たとえば古代ギリシャの長編叙事詩『オデュッセイア』では、女