第二回かぐやSFコンテスト読者賞受賞作品 「境界のない、自在な」 興奮してはしゃいでいたミミも、手術室の無機質さ、医者たちのくぐもった眼をのぞいて、少し怖くなったのか、唇をぎゅっと窄めた。医者の手が固いくちをこじあけてチューブを差し込む。麻酔やその他の、無学な私には計り知れない薬品が全身にまわると、医者たちは慣れた手つきでミミの皮膚を剥がしていった。さきほどまで小さな城壁だった唇さえ、すみやかに切除される。筋肉だけになった娘の姿は、人体標本でもみせられているようで、血縁や親心とか、そういう感情を飛び越えて、生理的にみていられなくなり待合室に戻った。曽祖母は連れてこなかった。手術のこともいわなかったし、そもそも彼女はよくわかっていない。予防接種や歯科矯正、曽祖母が産まれた集落でいうと割礼のようなもの、といっても納得はしないだろう。この光景をみせたら、私や病院を悪霊に憑かれていると勘違いして、