デビュー作「野ブタ。をプロデュース」が70万部超の大ヒットを記録し、華々しいデビューを飾った小説家の白岩玄さん。浮き沈みが激しかった20代をありのままつづります。 #01 無知の強さ 20歳のときに、ぼくは夜な夜なくだらない昔話のパロディーを書いて、それを歌手の宇多田ヒカルさんに送っていた。宇多田さんの公式サイトは、当時ファンからのメッセージが送れるようになっていたので、そこに「おばあさんが流れてきた桃に気づかなくて、桃太郎が何回も川下りをし直す」みたいな物語を貼り付けて、毎週のように送っていたのだ。 いくら彼女のファンだったとはいえ、相当イタい人間だし、今考えると大変ご迷惑なことをしていたなと思う。でも当時のぼくは、ヒッキー(宇多田さんの愛称)が自分の書いたものを読んで笑ってくれるとけっこう本気で信じていた。 なぜそこまで自分を信じられたのかは、ぼくにもよくわからない。そのときはフリータ