まばらな観客が見つめる土俵の上に、ゆっくりと2人の力士が上った。平成22年5月11日夕刻、東京・両国国技館。十両の清瀬海(26)と春日錦(35)=現・竹縄親方=は厳しい表情で仕切り線に拳をついた。立ち会い。両者はバチン、と音がするほど激しくぶつかった。 「立ち会いで強くあたってあとは流れでお願いします」 清瀬海が左を指して攻め立てる。春日錦は土俵際まで一気に押し込まれた。だが、春日錦はなんとか踏みとどまる。数秒間、動きが止まった。 「了解いたしました。少しは踏ん張るよ」 その瞬間。清瀬海が上手投げを放つ。ゴロン、と土俵に転がる春日錦。悔しさをにじませるように、少し首をかしげながら立ち上がった春日錦は、一瞬、清瀬海と目を合わせた。 うまくいった-。 豪快な決まり手に、観客からは小さな拍手が起こった。前日夕刻、2人が「立ち会いで強く…」「了解いたしました…」とメールで打ち合わせた通りの内容で取