岡田育1980年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。出版社勤務を経て、現在は情報番組などにも出演中。著書に『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』がある。 大学生の頃、アルバイトで家庭教師をしていた。教え子の一人は、進学校を目指す中学生男子。「数学の試験では解けない問題を見たことがない」と豪語する、理数系の優等生だ。 ところが国語の成績だけは、ずっと赤点続きだという。母親の依頼を受けた私が空白だらけの現代文の答案用紙に目を通す途中、隣で頬を真っ赤にしてモジモジしだした彼は、大人びた面差しに子供の戸惑いを載せて、こう言った。 「先生、僕には、人の気持ちというものが、わからないのかもしれません」 数学の問題にはあらかじめたった一つの解答が用意されているので容易に満点が取れる。物理も生物も社会科も、教わった通りに答えれば間違えようがない。でも国語の問題に限