著者自身が世界各地で体験したクロサワ神話について考察する。 代表作である「七人の侍」をはじめとする黒澤映画は、本人の意図を超え、世界各地で 様々な解釈をされている。たとえば、キューバでは孤立した状況における独立の象徴 として、イスラエルでは古典の巨匠扱いだが、パレスチナでは現在進行形のテーマに 取り組む現代監督として、各地でそれぞれの神話を形作ってきたわけだ。 中でも興味深いのは、紛争により、地域全体が巨大な「野武士に破壊された村落」状態 になってしまった旧ユーゴスラヴィアだろう。 「戦犯たちは、村を守ろうとした侍と同じじゃないか」というセルビア人の声に、 そう言う見方もあったのかと驚かされる。 彼らにとっては、ラストの悼みのシーンは重要な意味を持つのだろう。 ユーゴスラヴィアの悲惨な戦争の中にあって、黒澤明はけっして日本やアメリカの 映画研究者がアームチェアで分析を試みるような古典なので