前回のエントリでは,中谷宇吉郎のことについて書いた.宇吉郎には,治宇二郎(じうじろう)という弟がいた.中谷宇吉郎は有名であろうが,その弟の治宇二郎については,ネットではおそらくほとんど触れられていないのではないかと思うので,今回のエントリでは,治宇二郎のことと,それにまつわる思いについて書いてみたい. 中谷治宇二郎とその人となりについては,兄宇吉郎の,「一人の無名作家」という短いエッセーをいつも思い出す. 昭和十年発行の岩波版「芥川竜之介全集」第八巻に「一人の無名作家」という短文がある. 七,八年前,北国の方の同人雑誌を送って来たことがあるが,その中の「平家物語」に主題をとった小説が,印象に残っている.「今はその青年の名も覚えておりませんが,その作品が非常によかったので,今でもそのテーマは覚えているのですが,その青年のことは,折々今でも思い出します.才を抱いて,埋もれてゆく人は,外にも沢山