《複雑なのか単純なのか、人間関係って奥が深い》 『マリア様』のテーマは、上の一文に端的にあらわれている。 人の喜びや期待、寂しさや悲しみといった感情の多くは、人間関係から生じる。自分が何者であるかという自己意識も、他者との関係の中で浮き彫りにされて初めて現実的なものとなる。他者の批判によって自己意識が削がれる場合もあれば、 《自分勝手な想像をしていじけてみたりしたけれど、みんながみんな、祐巳に対して批判的な感情ばかり抱いてはいないらしい》 というように、他者の態度によっては否定的だった自意識も、肯定的なものへと転ずる。 そうした心の変化に明確な段落と道筋をもうけること――それが成長であり教育である。 『マリア様』における人間関係は「姉妹(スール)」という制度を中心に描かれる。修道女(シスター)に代わって学生自身に指導を任せるという制度で、「姉妹宣言」「姉妹の契り」とあるように、誰と姉妹にな