誰でも「できる」ことと「できない」ことがある。「できる/できない」の間で迷ったり、不安を感じたり、無力感を持ったりしながら生きている。レビー小体病という「誤作動する脳」を抱え、できなくなったことと工夫によってできるようになったことを自己観察してきた著者が、「できる/できない」の間を自在に旅するエッセイ。 今年の初め、浴室から出るときに初めて転んだ。なぜか足拭きマットがなかったが、気にせず足を踏み出すと、ツルツルの氷の上を踏んだかのように鮮やかに滑り、全身が宙に浮かんだ。 生命の危機を感じたとき、時間は、映画「マトリックス」の世界のように超スローに切り替わる。(昔、車で軽い事故を起こしたときにも体験した。) このまま倒れたら、この硬い角に後頭部を強打して死ぬかもしれない。 助かっても脳へのダメージは深刻だ。出かけている夫が帰宅して、とんでもない格好で死んでいる私を見つける。警察が呼ばれ、何人