大橋さんは、脳と感性について研究をされる科学者であると同時に、音楽家としてもご活躍されています。そうしたフィールドをもとに、「音」を科学的に検証されていますが、私達にとって「音」とは一体どういった役割を持つものなのでしょうか? 人間にとって重要なリモート・センサーに、視覚と聴覚があります。視覚というのは主体的で、自分である程度操作できる。「まぶた」を閉じれば環境からの視覚情報の入力を拒むことができますよね? しかし耳には「耳ぶた」なんてものはありません。私達は母親のお腹の中にいた時から、そして眠っている時も、絶えず周りから押し寄せてくる音を受け入れる生活を送っています。だから聴覚は、一時も休みがないという点で、心臓や肺と一緒なんです。もちろん聴覚が使えなくても人間は生きていけます。しかし、私達を取り巻く環境を情報としてとらえる際に、聴覚は特に重要な役割を果たしているといえます。