エンタメ作家の登竜門として知られる横溝正史ミステリ&ホラー大賞。北沢陶さんの『をんごく』は同賞史上初めて、大賞と読者賞、カクヨム賞の3冠を射止めた破格のデビュー作だ。 取材・文=朝宮運河 写真=首藤幹夫 「受賞の連絡をいただいた時にはとにかく驚きました。『大賞です、読者賞です、カクヨム賞です』と続けて告げられて、そんなことがあるんですかと耳を疑いました(笑)。電話を切った後もえらいことになった、どうしよう、という戸惑いの気持ちの方が強くて、喜びがこみ上げてくるまでには時間差がありましたね」 『をんごく』は紆余曲折を経て完成した作品で、執筆の間には長い休筆期間もあった。 「手元のメモによれば、もとになるアイデアを思いついたのが2018年頃です。そこから何度もプロットを練り直して形を整え、執筆を始めました。ところが半分くらいまで書いたところで手が止まり、3年4カ月ほど休んでしまったんです。その