執筆:久方楸 序論 2023年になった現在、百合と呼称される作品は10年前と比べて遥かに増加しており、またその内容についても非常に多様化している。実際、女の子同士の緩い日々を描く所謂「日常系作品」から、現実世界のホモフォビアやミソジニーに切り込む社会的な作品まで、「百合」と言う呼称は非常に広がりを持った作品ジャンルとして存在している。そのため、現在「百合」の最も広く受け入れられる定義は「女性同士の関係性を描いた作品群」という曖昧なものとなっている(むしろ曖昧なままここまで来たからこそ、多様化したとも言える)。 また、2022年10月より『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下『水星の魔女』)の放送が始まったことは記憶に新しい。この作品はガンダムで初めて主人公を女性にしており、また主人公が女性の婚約者を持つなど、百合を感じさせる部分が非常に多い。ガンダムという巨大コンテンツが百合の文脈を取り入