『週刊新潮』 2011年1月20日号 日本ルネッサンス 第444回 昨年12月、水資源、領土、貿易不均衡など難問山積の中印関係を観察する貴重な現場に立ち会った。シンクタンク国家基本問題研究所(国基研)とインドのシンクタンク、インド世界問題評議会(ICWA)との意見交換のためにニューデリーを訪れたのだ。私たちの訪問は、中国の温家宝首相のインド訪問と時期が重なり、ざわめくような状況で進行した中印外交の一端を、巧まずして見聞することになった。 ICWAは1943年、ネルー首相の肝煎りで設立されたインドで最も権威あるシンクタンクだ。数百人を収容出来る講堂があり、地下全体が広い図書館となっている。正面の階段も玄関も大理石造りの如何にも歴史を感じさせる建物だった。 12月16日15時半、小柄な温首相は背筋をピンと伸ばし、顎を上げ気味にして姿を現わした。会場のそこここで、長身で屈強な男たちが目を光らせる