2ヵ月にわたったモーリー・ロバートソン責任編集「分断する世界。そこにある常識を疑え」。 特集の最後は、何も持たない若者たちが地元のボクシング大会で「一発逆転」を狙う様子を丹念に追った、どこかペーソスただようルポルタージュをお届けする。 「何もやることがない」から殴り合う ジョージ・ホワイトはワンルームのトレーラーハウスでピザを食べていた。 ここは米国ウエストバージニア州の町プリンストン。ホワイトは数時間後、数千人の観衆の前で、自分より身長が30cmほど高い男と闘うことになっている。 だが、意外にも、ホワイトは落ち着いていた。 ホワイトが出場するのは「ラフ・アンド・ラウディ」という地元のアマチュア・ボクシング大会だ。出場者は全員、地元の人間。リングにあがり、3分間殴り合う。 名目はボクシングの大会だが、出場選手は身体を鍛える必要がない。それどころか、本格的なボクシングのトレーニング経験がある