僕がまだ若く、心がいまよりもずっとざわめいていたころ、海岸には巨石が林立していて、若者たちはそこで各々のささやかな悪を育くんでいた。波にえぐられ、きのこ状に形を変じた岩陰は、野暮天な大人たちや、洒落の通じない警官どもから身を隠すにはもってこいの場所だったのだ。もちろん僕も、そうした若者のひとりであったので、夏が来るたびにあの岩陰に出向き、ここではとても書けないような悪の実践に励んでいた。 岩陰は無数に存在していたけれど、自分のお気に入りの実践場を見つけることは、決して簡単ではなかった。海岸には、日本語、英語、中国語、ハングル、あるゆる言語が刻まれたゴミが流れ着いてくる。そうした中で、潮風と海流に守られた、ゴミを寄せ付けない場所を探さなければならないのだ。その他にも、草の生え方や、岩の丸められ方など、考えるべき要素はいくらでもあって、それらの条件を全て満たした場所となると、長い海岸線の中にも