生涯にわたり信仰と文学の「コトバ」に共振し、晩年に稀有な作品を遺した須賀敦子。 没後二十二年たっても読者を惹きつけてやまない作家の、魅力の源泉とは。 須賀敦子の「霊性」に、同じ情熱をもって迫る本格評伝。 一九九〇年、須賀敦子が第一作『ミラノ 霧の風景』を発表したとき、「ほとんど一撃を以て読書界を圧倒した」と現代ギリシア詩の翻訳で知られる中井久夫が書いている(『時のしずく』)。それまではギンズブルグなどイタリア文学の翻訳者として、また、川端康成や谷崎潤一郎など日本文学のイタリア語訳者として、知る人ぞ知る存在だった。生前に出版された自著は五作。六十九歳で亡くなるまでわずか八年間の作家生活だった。 これが何を意味するかといえば、著作だけ読んでも、須賀がどんな思想をもち、どんな人生を生きた人かはわからないということだ。没後に編まれたエッセイ集や近しい人々による回想記はあるものの、読むほどに、何か決