ガダマーの『真理と方法』刊行以後、解釈学は現代哲学の潮流のなかでも確固たる立場を得たと言えますが、とくに近年のわが国の若き哲学研究者たちのあいだでは、これまで以上に厳密かつ精緻に解釈学的事象そのものへ迫ろうとする本格的な考察が始まっているように思えます。その成果の一つが、川口茂雄著『表象とアルシーヴの解釈学――リクールと『歴史、記憶、忘却』』(京都大学学術出版会、2012年)です。リクールは、多くの哲学者・思想家たちとの対決をとおして、そのつど同時代の最先端を行く独自な思想を展開させ、膨大な著作を書き遺しました。そのためリクール思想の全貌を捉えることは容易ではなく、なかでも最晩年の大作『記憶、歴史、忘却』は難解で知られています。しかし本書は、多様な歴史的観点を縦横無尽に駆使してこの大著を読み解きつつ、じつに生き生きとした筆致でリクールの解釈学的思想の根幹を私たちの目の前に描き出してくれてい