発達人間学論叢 第1号 1998年2月 レヴィナスの他者論 鶴 真一 京都大学大学院文学研究科 1.はじめに 一なぜ「他者」が問題なのか一 絶対的に他なるもの、それが他者である1 「他者」という言葉(あえて「概念」とか「観念」 とは言わない)は、現代思想の寵児となっている。 「他者」がこれほど重要視されるのは、哲学のみ ならずあらゆる学問領域において、「他者」とい うものがまともに考えられたことがこのかた一度 もなかったという反省が、現代に至ってようやく なされるようになったからである。いつも身近な 存在であったにもかかわらず、否、それゆえに、 「他者」は限りなく遠い存在であったと言うこと もできよう。それでは、「他者」とはいったい何 者なのであろうか。 「他者」という言葉は翻訳語であって日常会話 ではまず口にされることはない。そのため、「他 者」という言葉には奇異な感じがっきまとう。