人類学者でなくとも,この分野で最も影響力のある概念の1つである「男性は狩猟者(Man the Hunter)」はおそらく聞いたことがあるだろう。狩猟は人類の進化の主な推進力であり,狩猟を担ったのは男性であって女性が狩りをする余地はなかったとする学説だ。人類の祖先は男性と女性の生物学的な差異に根ざして分業制をとり,男性は狩猟と獲物の分配を,女性は子育てと家事を担うよう進化したとする。また,男性は女性より身体的に優れており,女性は妊娠と子育てのために狩りの能力が低い,あるいはないと決めつけている。 この「男性は狩猟者」説は,人類の進化研究を半世紀近く支配し,大衆文化にも浸透した。博物館のジオラマでも教科書の挿絵でも,土曜朝のアニメや映画でもそのように描かれている。ところが,これは間違っているのだ。 マラソンなど持久力を要する運動は,男性よりも女性の方が生理学的に適していることを示す証拠が運動科