2015年1月、フランスで起きたシャルリー・エブド事件を報じるニュースを見て、まず連想したのは、かつてアメリカで頻発した人工妊娠中絶クリニックの医師殺害事件、そして2004年に起きた映画監督テオ・ファン・ゴッホ殺害事件だった。その後の関連事件の地理的広がりや一般社会・国際社会の反応は、今や比べ物にならない大きさになっているが、すべて宗教的価値感情が関わっている(少なくともそう見える)点では共通している。アメリカでは、とくに人工妊娠中絶をめぐる社会的衝突は、「文化戦争」culture warsの典型例とされている。 フランスの事件の直後、これを報じた記事の中に「文化戦争」という言葉を取り上げていたものがあった。ひとつ確認をしておくと、「文化戦争」は物理的な戦争を指す言葉ではないので、テロ事件の衝撃性そのものを取り出して「文化戦争」と呼ぶべきではないだろう。殺害行為などの暴力そのものに対しては