映画作家とはどんな人物を指すだろうか。ヌーヴェル・ヴァーグを生んだことで知られるカイエ・デュ・シネマの批評家たちは、アルフレッド・ヒッチコックやハワード・ホークスを真の映画作家と見なした。この2人は職人肌の娯楽映画の監督であるが、どんな作品でも監督の個性や匂いのようなものが刻印されている。 声高に主張を掲げずとも、刻印される何かを持ちうる映画監督を映画作家と呼ぶのなら、山田尚子監督はそう呼ばれるにふさわしい存在だと『聲の形』で証明した。過去の作品とはまるで異なる雰囲気の作品でありながら、あらゆるシーンに山田尚子の刻印がある。 ほんわかとした平和な世界の可愛い女の子の物語である『けいおん!』や『たまこラブストーリー』で人気を博した山田監督が、いじめとディスコミュニケーションを中心に息苦しい世界を描くと聞いた時は驚いた。『聲の形』で山田監督は、今まで自身が描いてきた世界とは180度真逆の世界と