わずか1年4カ月の稼動期間に70万人以上のユダヤ人が殺害されたトレブリンカ絶滅収容所の実態は、ほとんどわかっていない。本書に詳しく描かれている叛乱後、ドイツ側は収容所の再建を意図したがかなわず、最後に残っていた囚人30名は、収容所の痕跡を消し去るまで酷使された後、1943年11月13日に虐殺された。ドイツ側はこの地を農場に変え、ウクライナ人のある一家が耕作地とした。NHK-BSでも放映されたように、現段階では考古学者たちによる発掘でも人骨が見つけられず、火葬用窪地跡も決定できていないようである。 だから、その資料的重要性も考慮して本書を刊行したわけだが、ここでは二点触れておきたい。 ひとつは、なぜ著者ヴィレンベルクが1986年になって本書を刊行したかについて。 本書は、著者の記憶の生々しい1948年、ポーランド・ユダヤ人中央委員会ウッチ支部がインタビューしたさいに提出された87ページに及ぶ