米国のトランプ次期大統領の就任式を1週間後に控え、米国のIT大手各社のCEOたちが、一斉にトランプ氏になびいている。
メタは2025年1月7日、FacebookとInstagramで投稿内容の正確性を確認するファクトチェッカーを廃止すると発表した。同日付のメタのブログを確認すると、マーク・ザッカーバーグCEOが動画を公開し、ファクトチェックを廃止する理由を説明している。ザッカーバーグ氏は動画の中で「私たちは原点に戻り、誤りを減らし、方針を簡単なものにし、プラットフォームにおける自由な言論を取り戻す」と述べている。ザッカーバーグ氏はこの発表に先立ち、トランプ氏と会談し、就任式のための基金に100万ドル(約1億5700万円)を寄付している。
こうした動きは、メタだけにとどまらない。米メディア各社によれば、グーグル、マイクロソフト、アップルのティム・クックCEO、アマゾンも就任式の資金を集める基金に寄付したと報じられている。この顔ぶれは、米国のIT大手を指すGAFAMそのものだ。ChatGPTを運営するOpenAIのサム・アルトマンCEOも、この基金に寄付したと報じられている。
これまでトランプ氏と距離を置いてきたIT大手各社が、一気にトランプ氏への支援に舵を切った背景には、いちはやくトランプ氏支持に動いたテスラのイーロン・マスク氏の存在があるのだろう。
メタの方針転換
メタはこれまで、情報の真偽について疑いのある投稿は、第三者機関である「ファクトチェッカー」がその真偽を確認する仕組みを採用してきた。しかし、ザッカーバーグ氏は7日の動画の中で、こうした仕組みを「検閲」と呼び、ファクトチェッカーは「政治的に偏りすぎている」とした。
そのうえで、米国から「コミュニティノート」を採用するとしている。これまでの方法では、ファクトチェッカーが情報の真偽を確認し、「虚偽」「加工」「一部虚偽」と判断された投稿については、ラベルが付けられ、FacebookやInstagram上での配信が減らされる。今後は、ユーザーが真偽に疑いのある投稿などについて「コミュニティノート」を書き込み、注意を促す。この仕組みはXで採用されているものとほぼ同様だという。
こうした対応や、方針転換を説明する動画での発言について、1月9日のBloombergは、「ザッカーバーグ氏の発表は、今やトランプ氏側近中の側近となったマスク氏の発言と、非常に似通っていると多くの人々は受け止めた」と報じている。
これまで、トランプ氏とザッカーバーグ氏は、トランプ氏のSNS上での発言をめぐって激しく対立してきた。2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件の後には、メタはトランプ氏のアカウントを凍結している。それだけに、メタの大幅な方針転換は世界中のメディアから驚きをもって受け止められている。
「みんな、私の友だちになりたい!」
トランプ氏自身は、GAFAM各社のCEOが一斉にトランプ氏との関係改善に舵を切った状況を楽しんでいるようだ。2024年12月19日には、トランプ氏は、自身が運営するSNS「Truth Social」で、「みんな、私の友だちになりたいんだ!!!EVERYBODY WANTS TO BE MY FRIEND!!!)」と投稿している。
GAFAM各社はいずれも、特に独占禁止法の分野でリスクを抱えている。たとえばグーグルは、米司法省からブラウザGoogle Chromeの売却を求められている。アップルやメタなど他の各社も独禁法をめぐる訴訟があるため、いまトランプ氏と対立するのは得策ではないと判断し、寄付を通じた関係改善に踏み切ったと受け止めていいだろう。
グーグルは寄付だけでなく、YouTubeでトランプ氏の就任式を配信するほか、ウェブサイトへの直接のリンクで就任式を支援すると報じられている。アマゾンも就任式をライブ配信するという。
日本への影響は
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