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ベンチャークライアントを読み解く。どうやってスタートアップと提携して価値を生み出すのか?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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 前回の記事では、拙著「オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド」(以下、「OI担当者本」)で取り上げたベンチャークライアントに関して、実務家に役立つと思われる文献を簡単なコメントとともに列挙した。今回は、そこでは触れなかったGutmann(グートマン)らが2024年8月3日に出版した書籍「Venture Clienting: How to Partner with Startups to Create Value」を紹介したい。
*羽山友治 [2024],『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』 ASCII STARTUP,角川アスキー総合研究所。
**Gutmann, Tobias, Sebastian Greiss and Christian Huettenhein [2024], Venture Clienting: How to Partner with Startups to Create Value, Kogan Page.

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 GutmannはドイツのEBSビジネススクールに所属しているイノベーションマネジメントの研究者で、ベンチャークライアントを含めたコーポレートベンチャリングに関する論文を多数報告している。またオープンイノベーションを提唱したChesbroughとの共著論文も複数持っており、本書の序文としてChesbroughの推薦文が掲載されているなど、その関係性の深さがうかがわれる。

Venture Clienting: How to Partner with Startups to Create Value」の構成と扱われているテーマは以下の通りだ。

 まず「ベンチャークライアント探訪」と題したパート1では、大企業がベンチャー企業と協業する必要性やオープンイノベーションのトレンド、そしてCVCを含めた他の手法との関係性が丁寧に説明されている。続くパート2では、ベンチャークライアントの戦略・基本事項・プロセス・その他関連する話題が、細かい実務上のノウハウとともに詳細に記されている。最後のパート3が扱う本手法の課題や今後の展望は、イノベーション政策の担当者を含めたより幅広い人々にとって一読の価値ある内容と思われる。

 現時点ではベンチャークライアントを最も包括的に説明した書籍のひとつではないだろうか。ベンチャークライアントを実践している、または興味がある読者に向け、以下では特に注目したい内容を取り上げる。

ベンチャークライアントでは課題を起点としてそれを解決できるシーズを探索せよ

 本書の7章では、ベンチャークライアントのプロセスが、5つの段階に分けて詳細に説明されている。

 前回の記事でも取り上げた「課題の特定」に関する発見フェイズの記載を確認してみると、プッシュ戦略とプル戦略の2つがあることが説明されている。前者はベンチャークライアントチームが見出したベンチャー企業のシーズありきでそれに適した社内の課題を見つけようとするもので、後者は逆に課題を起点としてそれを解決できるシーズを社外で探索するアプローチである。

 両者の特徴の違いが説明されている一方で、本書では明確にプル戦略に焦点を当てるべきことが推奨されている。そしてベンチャークライアントチームは課題の保有者を顧客として扱い、自身の予算を投入してでも解決したいと考えているかどうかが真剣さを見極める鍵であると主張している。また課題の特定から始まるため、社外よりも社内のネットワークを構築するほうが重要であると書かれている。

 課題の種類に関しては、製品よりもプロセスに関するものに注力すべきことが説明されている。その根拠として、プロセスイノベーションの場合はソリューションを保有するベンチャー企業とベンチャークライアントチームが属する大企業の2者しか関与しないのに対して、製品イノベーションの場合はその製品を購入する顧客という第3の変数が入るため、成功確率が低くなることが挙げられている。

 続く採用フェイズに関する興味深いものとして、逆に大企業がベンチャー企業の顧客になるパターンが紹介されている。例えば、ベンチャー企業が大企業の提供するクラウドコンピューティングサービスを利用することで、自社のデータ管理を効率化する場合である。大企業側の金銭的メリットは薄いものの、ベンチャー企業への協力姿勢を示すという意味では、1つの出口として持っておいてもよいのではないだろうか。

 最後に実務担当者が気になるであろうKPIに関して、21個のリストが活動・ビジネスインパクト・パートナーの価値・リーチ・フィードバックの5つのカテゴリーに分けて掲載されている。特に目新しいものはないものの、社内の協力者の数やベンチャー企業のネットプロモータースコア(NPS)のようなものまで広く含められているので、活動を振り返る際の参考になるかもしれない。

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